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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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側聞/早苗とその娘・茜は-10

「ママ、ただいま」
「レッスンどうだった?」
「最近早苗に逢えないけど、元気? っておっしゃってたわ。元気ですけど、彩乃先生に会いたがってますって言っといたわ」
「ありがとね」
「もうすぐ夏休みだし、そしたらしょっちゅう会えるんじゃない?」
「そうね・・・もうすぐまた夏休みになるのねェ・・・」
「なあに? その思わせぶりな言い方・・・また夏休みになるのねェって」
「え・・・うん・・・まあ」
「変なママ。また何か思い出したの?」
「思い出したんじゃなくて、忘れられない日があるのよ」
「そう言いながら、また話せない、そして話してくれない?」
「まあね・・・ママの大切な秘密だから。なんてね」
「まあいいわ。茜ね、つくづく性格がママに似ていると思ったわ」
「そりゃ親子だもの・・・」
「ずれてるって・・・。昨日のママの話でね、ママがユリだったのかって思ったとき、例えそうだったとしても、別に嘆いたりはしないだろうなって思った」
「そう・・・」
「そうよ。ママの話、最近やっと茜を認めてくれてるなって感じるの。だから、そう思ったのよ。案外本音で話してくれてるなって、うれしかった。だから、今までの想像だけの世界じゃなくて、何かが見えてきたような気がするの。彩乃先生の生き生きした顔を見ていると、素敵な人に男も女も関係ないんだなあって。茜だって、最初に胸を焦がした人が女性だったら、多分100%ユリの花になっちゃうと思うよ」
「そう・・・」
「それって、ママ、イヤですか?」
「・・・・・・」
「イヤですか? って聞いてるの」
「だれかそういう人がいるって言ってるの?」
「彩乃先生・・・って、ウソ。いないよ別に。ただね・・・今までのように彩乃先生が見られないの。顔を見てしまうと、ママから聞いちゃった奈津子先輩って人との愛の物語を聞きたくて聞きたくて・・・。それもなんだけど、ママの話を聞いてから、先生の<お姉ちゃん>って囁いた声が耳から離れないの。だけど、この間のような質問は絶対慎むべきだって思うし、でも聞きたい・・・そう思いながら彩乃先生の・・・あの細い指の優雅な動きを見たり、すぐ横にいる先生の匂いを嗅いじゃうと、身体のどこかが騒いじゃって、レッスンに身が入らなくなっちゃったの」
「困ったわね。やっぱり話すべきじゃなかったのかしら」
「逆じゃない? 茜を見て。あなたの娘よ。生理もあるし、オッパイも大きくなっているのよ。もう、何を言ったって言われたって、自分の気持ちくらい自己責任で切り替えられるわ。彩乃先生をまっすぐに見られるようにして」
「茜ったら・・・」
「ママだって分かるでしょ? 彩乃先生だって茜の年だったんでしょ?」
「そうね・・・分かったわ。夏の想い出を話す。ママにとっては余りにも切ない想い出なんだもの・・・でも今日は話せない」
「どうして? パパ今日も残業だよ・・・多分」
「そうじゃなくて、やっぱりそのときの彩ちゃんを想うと泣けてきちゃうから」
「泣いてあげれば? 茜ね、ママの話を聞いて間違いないなと思ったんだけど、彩乃先生って、ママがいたから奈津子さんとの別れの悲しみが癒されて、もっと深い愛っていうか、胸を押さえながらあの世の奈津子さんと交信できるようになったんじゃないかと思えるの」
「凄いこと言うのね。ママの娘にしては回転が速いのね・・・」
「ママの性格を茜に置き換えたのよ。そうしたら、多分彩乃先生は、ママの、何て言うのかなあ・・・純粋な、っていうか、温かい思いやりっていうか・・・余計なことを言わない愛情が、彩乃先生の悲しみを癒してあげたんじゃないかって思ったの」
「ありがとう茜。ママ、意識したわけじゃないけど、全てが空虚になっている彩ちゃんを、どう慰めてよいか分からなかったとき、彩ちゃんと同じ気持ちになって一緒に泣くことしかできなかったの。でも、あの夏の日を境にして、彩ちゃんは自分で立ち直ったのは確かなのよね。投げ出してしまった音大へ復学して、教員免許をとって、今、生徒たちに自分の音楽への思いを伝えてる。これって、ママじゃなくて、奈津子先輩の彩ちゃんに対する愛の深さが立ち直らせたんだと思ってるのよ」
「彩乃先生が立ち直ったっていう、その夏の日が・・・ママのおかげみたいなことはもう言わないわ。確かに奈津子さんの愛の強さだと思うけど、その夏の日に、ママと彩乃先生との間に何かあったのは事実でしょ?」
「彩ちゃんにとってはそんな大げさなものじゃないの・・・だけど、ママにとっては、彩ちゃんとの絆が強くなったって思えるから、大事な想い出だって言ったの」
「ママって、素敵な女だね」
「あ、パパのご帰還だ。いけね、夕飯できてないや」


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