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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-7

2、あつき心


 少女子(おとめご)は あつき心に そをば聞き 涙ながしき

          *  *  *

 その日からの私には、あたりの風景が変わって見えました。私の神経は研ぎ澄まされたように敏感になっていたのです。
 その時の私には、それがどういう心境の変化なのか、はっきりと言葉に表せませんでしたが、演劇部のお姉さんたちには感じるものがあったのかも知れません。
「ショパンが聞こえてきたから、みんな表で暫く聞いていたよ」
「彩ちゃんのマズルカ・・・切なくなってきたよ」
「あんた、鋭いね・・・言われてみると・・・音が豊かになったみたい」
「ただ弾いてるだけじゃない、ショパンの音になってたよね」
「もっと聞きたいね。彩ちゃん14番弾いてよ。あたし14番一番好きなんだ」
「孤独な感じがするヤツね・・・」
「奈津子、今日はえらくおとなしいね」
 そんな言葉を聞いたお姉ちゃんの顔に、仄かな朱が点すのを私は見逃しませんでした。
「お二人さんになんかあったりして・・・」
 そう言ったお姉さんも、他の人たちも、それきり口をつぐんでしまうような妙な空気でした。
 お姉ちゃんは言ったのです。
「ちょっと・・・彩乃と喧嘩しちゃったんだよ」
「ウソ。絶対違うね・・・奈津子、変だよ。ぜったい彩ちゃんと何か・・・」

 14番ト短調を弾き始めると、私自信とても切なくなってきました。
「あら、・・・奈津子14番で泣いてるの?」
「ホントに喧嘩なのかなあ・・・彩ちゃんそうなの?」
「まあ、喧嘩もいいさ。喧嘩しないと、ホントの仲良しになれないもんだよ」
「仲良くしておくれよ。彩ちゃんにそっぽ向かれたら困るのは私たちなんだからね」
「もう大丈夫よ。仲直りはしてるんだから・・・」お姉ちゃんは小さな声でそう言いました。
「見てご覧よ。彩ちゃんだって、弾きながら鍵盤に涙を落としたりしてる・・・奈津子を許してあげてね・・・奈津子は見かけによらず、スッゴイ繊細なんだから・・・」

 その夜私は、湯船の中で静かにお姉ちゃんに抱かれていましたが、私の手はお姉ちゃんをおんぶするように背中に回っていました。
 私は自分でも分かってはいるのですが、少し気の強いところがあって、兄とはよく喧嘩になってしまうほど自説を曲げない頑固なところがあり、二人は入れ替わっていればよかった、などと言われてきました。その分と言っては変ですが、人を思いやる気持ちに鈍感なところがあるのだと思います。
<奈津子は見かけによらず、すっごい繊細なんだから・・・>
 その言葉は、私にお姉ちゃんの本質を気付かせてくれたのです。それがお姉ちゃんに対する優しさになって現れたのでしょう。


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