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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-22

 <赤ちゃんができた>という意味。それは、お姉ちゃんが考えていた私との将来を否定することでした。赤ちゃんだけを葬ることはできない。食事が喉を通らなかったのではない、強い意志で、通さなかったのではないかと・・・。

 そんな馬鹿なことがあるもんですか。妊娠中毒症だったとか、お姉ちゃんの身体を蝕んでしまった何かの病魔のせいかも知れないじゃないの・・・。
 私は、突然に自分を襲ったお姉ちゃんの死を冒涜するような考えに戦きました。でも、その考えを打ち消せば打ち消すほど、「彩乃の元に必ず帰るからね」と言った約束、それは私への愛欲。そのために、やがて子供を<足枷>と思うようになりはしないかという自分への恐怖・・・でも子供は新田家の希望・・・。
 その間で迷い、苦しんだ上での決断だったのではないかという考えが、頭の隅にこびりついて離れなくなってしまったのです。
 お姉ちゃんの笑顔を見られるだけでもいい、手に触れてくれるだけでいい、声を聞くだけでいい、生きてさえいてくれれば・・・という適わぬ願いは、繊細すぎるほどに優しい心根をもつお姉ちゃんには望むべくもなかったのです。

 私は、お姉ちゃんの愛に応えることだけに集中するようになりました。
 復学して教員免許をとり、今は故郷ともなった長野の中学校の音楽教師になり、新田家から通う毎日になりました。かつての演劇部のお姉さんたちもこの部屋に集まってくれ、私のピアノに合わせて歌ったりする交流も続いています。お姉ちゃんとの想い出話も、涙を見せずにできるようになりました。

 私の胸を温めている二つのロケットとお姉ちゃんの骨が微かに擦れる音、それは永遠の人の囁きであり、あの愛の想い出を途切れることなく蘇らせてくれる音なのです。私は50を過ぎ、どんどん老いていくけれど、記憶の中の奈津子お姉ちゃんが美しいままに生き続けていくように。


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