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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-21

 お姉ちゃんの部屋に越した日、おばさまの言葉に引っかかっていた私は、お姉ちゃんが遺してくれたドレッサーを整理しようと左右の引き出しを開けてみましたが、化粧品も何もなく新品のように磨かれていました。でも、鏡の前の上蓋を開けてみると、片隅に厚めの筆箱くらいの文箱がありました。箱の上面には楕円形の窪みがあり、一部を残した薄い空隙が見えました。
 私は何かの予感がして、肌身離さず掛けていた二つのロケットを外し、一つをその窪みに入れてみたのです。ロケットの楕円形と重なりました。人差し指で隙間の方向へ回転させると、吸い込まれるようにロケットが90°回り、難なく蓋が開いたのです。
 そこには・・・「彩乃へ」と、お姉ちゃんの字で書かれた封筒が入っておりました。
 「私のすべて。私の身も心も全て彩乃の・・・」そんな書き出しから始まる私への長い長いラブレターでした。そして、レターの最後に<この鍵でロケットが開くよ>と添え書きがされていて、針のように細い金属がセロテープで貼り付けられていたのです。
 おそるおそるそのその鍵を小さな穴に入れ、押してみると、バネが跳ねるような小さな音を立てて開きました。
 そら豆ほどですが、鮮明に写されたお姉ちゃんの写真が左に、そして、いつの間に撮られていたのか、私の笑っている顔写真が右に嵌め込まれていました。お姉ちゃんが握っていたというロケットは、その写真が入れ違いに入っておりました。木箱もロケットも、共に専門店で作らせたらしい、とても精密で精巧な造りでした。
 写真が納められたロケットは、閉めると恋人同士の顔が重なり合うことになり、それが忍ぶ恋を思わせて私を苦しめました。
 映画の一場面にも、ロケットの写真が愛を表現する小道具として使われているのを見たことがあります。でも、こうして二つのロケットを手にしてみると、それは<切ない>と言うにはほど遠い、涙の海の底まで引きずり込むほどの激しい苦しみとなって私の胸を掻き乱しました。
 二つのロケットを握り締めて胸に押し当てていると、回りの世界は全て消え、ただお姉ちゃんの声と、笑顔と、涙ぐむ顔だけに包まれて長い間その胸の痛みに耐えておりました。

 ご両親は、まだお墓に入れるには忍びなかったのでしょう、お姉ちゃんのお骨はお仏壇に供えられたままでした。私はお骨壺を開け、そこにロケットの鍵を潜ませた後、一番上にあるお姉ちゃんの喉仏らしい骨を拾い、ロケットと共に乳房の間に隠しました。
 ラブレターは、一言一句余すことなく心に刻み、この先、誰の目にも触れないよう焼いてしまいました。炎の中から「彩乃!」とお姉ちゃんの呼ぶ声が聞こえたようでした。その小さな炎が、最後の輝きを放って燃え尽きようとしたその時、私の目の奥に、突然、電光のようにある考えが浮かんでしまったのです。


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