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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-2

 お姉ちゃんは女子高の演劇部で、文化祭で演じるミュージカルの歌や詩の話をしてくれます。私は将来ピアニストになりたいと、勝手な思いこみですが大きな夢を持っておりましたので、お互いに芸術系の感性があって余程波長が合ったのだと思います。例えばお洋服の色彩感覚、季節の香りや音の空気感、そして、演奏前のオーケストラの音合わせ音響が好き、というような、小さなところの好みがピッタリなのです。こうした感覚は、改めて確かめ合わなくてもお互いが分かっている状態と同じだからなのでしょうか、お姉ちゃんと話し出すと、話題が話題を呼んで止まらなくなってしまうのです。そのまま夕食を頂くことになると、「彩ちゃんがいると食事がおいしくなるね」と、ご両親に喜ばれるのをいいことに、時にはお姉ちゃんと一緒に寝るようになったりして、「彩乃はまるで新田家の娘みたいだね」と父に言われるほどでした。そうした私を仲立ちにして、家族同士の付き合いも親密になりました。
 東京での生活とは違って、少し大きめの畑仕事が楽しめるようになった両親は、何かと新田家に相談することも多く、親しく行き来できるようになったのをとても喜んでいるようでした。
 ちょっと余計なことですが、お姉ちゃんが楽譜持参で私の家に来て、自分のパートの伴奏をさせられることもあります。ただ、お姉ちゃんがウチにくると、兄が二人の間に割り込んでくることがあり、そんな兄の様子がちょっぴりイヤで、私はなんとなく自宅にいるより、お姉ちゃんを独り占めできる感じがする新田家にいる方が楽しく思えるのでした。
 
 長野の風景は大らかで美しく、気忙しい東京に比べると夢のような毎日でした。
 急に春めいて、野山が萌葱色に染まり始めると、足下に残る名残雪さえ温かく感じられ、通い慣れてきた道も新鮮な輝きに彩られてきます。
 芽吹きだした道沿いの草のひとつひとつを丹念に指で探ったりしていると、
「彩乃はやさしい子だね。でもそんなことしていると学校に遅れるよ」とお姉ちゃんに急かされたりします。
 夏ともなると、空の色には濁りもなく、くっきりと澄み切った空気で遠くまで見通せる山々の色は、私を心豊かな世界へ導いてくれる愛情を感じます。
 夏休みになって、お姉ちゃんと市民プールへ泳ぎに行くときは、兄も時々同行するようになりました。初めてお姉ちゃんの水着姿を見た兄は、赤くなってぎこちない態度をとっておりましたが、お姉ちゃんは平気で兄の背中に飛びついたり、プールに沈めたりたりしておりました。
 兄も時々は新田家にお邪魔をするようになりました。工学系に強い兄は、車や電器々具の故障などは朝飯前で修復しますから、おじさまは、男の子が広い家を動き回っているのが余程うれしいらしく、無理矢理お酒に付き合わせたりしていると、おばさまは3人兄妹のようだと言って、お料理の量が食べきれないほど並んだりしました。
 兄にしてみれば、きっと、綺麗なお姉ちゃんがお目当てだったのでしょう。自宅にいるときとは声の調子まで違って、兄貴ぶった格好をつけてお姉ちゃんと話している兄を見ていると、私は内心吹き出しそうになるのでした。私だけではなく、ご両親だって、兄がお姉ちゃんを意識していることは気が付いているでしょう。でもそれは、みんなにとって不愉快なことではなく、私たちにとっても、読書好きの兄のおかげでおしゃべりの内容が豊かになるのでした。

 そんな兄も、この春には大学に入って東京で一人暮らしを始めるようになると、お姉ちゃんと私は、二人きりの姉妹のようになっておりました。
 頭のいいお姉ちゃんに、受験のための勉強をみてもらえるのも大きな魅力でした。同級生というのは、学校やクラブ活動での付き合いだけで、普段も一緒に行動するほどの親しい友人がなかなかできなかったせいもあったのですが、その意味では、高校生と中学生ではあっても、共通の話題に事欠くことはありませんでしたから、私にとってはお姉ちゃんが唯一の親友といえました。というより、お姉ちゃんにくっついていると、自分がお姉ちゃんの域に達しているような錯覚に陥っていたのかも知れません。


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