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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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I am Providence T-1

 文明とは、すなわち明かりとともにある。日没を迎えれば世界は闇が支配するものとなり、人は身を寄せ合って明かりに集まる。ミドルードでもそれは同じであり、防壁に囲まれた人々の群がる巣では、警備兵の周囲に配置ややミドルード城各所で燃えさかる松明の明かりが灯っている。都市の外に一歩出ればそこは文明の外である。明かり一つない草原は昼間の顔を捨て、森の入り口は化け物の口腔のようで、今や開いた口の闇をさらけ出している。

 威勢が良く金のためなら死んでも良いとさえ言う商人でさえも、。夜の森には立ち寄らない。狼や熊という、人間を餌として扱う獣がいるからだ。主は人を自らの姿に似せて作ったと言われるが、ではその人間を喰らう狼は邪神の化身であろうか。

 そして今、鳥と虫の囁き声、そして獣の遠吠えしか聞こえぬはずの森に、二人の女が立ち入っていた。一人は流れるような赤髪の女で、奇怪なことに彼女は一際太い樫の木に登り、その枝に足をかけながら遠くを見つめている。視線の先には、闇の中ぼんやりと姿が浮かぶミドルード城がある。さてもう一人のシスターは、その樫の木の根元に寄りかかっている女で、くるりと自然に巻かれている金髪が、月明かりで仄かな輝きを放っていた。

 赤髪の女、エイダはそのしなやかな肉体を伸ばしてミドルード城を眺めていたが、そこになんの異常も無いことを見て取ると、今夜何回目かわからないため息を吐いて地上へと戻る。

 彼女の身長より遙かに高い樫の木から、音もなく飛び降りたエイダは、欠伸を隠すこともなく同僚の前で眠たげな顔つきをしてみせ、目を擦る。欠伸が収まった時の彼女の顔は、ベラに対して不満の顔を作っていた。

「……そんな顔をしても、聖務なんだから文句は局長に言いいなさいね」

 不満の視線など意にも介せず、ベラはその位置からミドルード城を観察している。

「つっても、こんなところから眺めてて、何か役に立つのかよ? もっと他の仕事なら歓迎なんだがなー……」

 元来待つのが苦手であるエイダは、猫の様に体を伸ばし、固まった筋肉をほぐしている。

「仕方ないでしょ。外出禁止令でろくに聞き込みもできないんだから」

「もう、いっそのことラスプーチン|殺《や》っちゃうか? それで万事解決じゃん?」

 いつものように燃える赤髪を風に揺らしておくのではなく、今のエイダは後ろで縛っている。尻尾の様に見える見事な赤髪を手で弄びながら樫の木にだらしなくもたれかかるエイダは、あまり真剣にはものを言っていないのだろう。ベラもそれをわかっていながら、半ば自分に言い聞かせる形で反論する。

「ダメよ。彼が今回の暗殺の首謀者なのか、それはまだわからないんだから。現状で一番彼が得をする立場にあるから、こうして城を見張ってるんでしょう?」

 木にもたれかかったまま、エイダは軽く二回首を縦に振った。その適当な態度に気分を害した風でも無く、ベラは再びミドルード城へと目を向ける。

 彼女らは、教会への補充要員のはずだが、では彼女らの言う「聖務」とはなんなのか。聖職者の生活では、夜は誰よりも早く寝床に着くが、この時間になって外を出歩くというのは、聖職者としてはなはだ奇妙である。いやそもそも、周囲を高い防壁に囲まれ、唯一の出入り口である門は吊り上げ橋を上げて侵入者も脱出者も出さないようにしているこの城塞都市から、彼女らは一体どうやって抜け出してきたのだろうか?

 当主暗殺によって緊張感の高まるミドルードでは、門の警備はいつも以上の厳重さで、その人員も倍に増員されている。そして彼らはたとえどんな用事があろうとも、一般の人間達を門に入れることを許さない。そして森から見える門の様子から判断すると、彼らは都市の中から脱走者が出たなどとは露程も知らぬ様子であった。

 二人とも、それぞれ異なる体躯を持ち、それぞれの美しさを持つ神の僕であるが、ただの女のはずである。果たして、どのような奇術を用いたの言うのであろうか。

 そのとき、エイダは今までだらしなく緩みきった顔をしていたが、突然ふっと顔を上げ、森の奥を見つめる。同様にミドルード城を観察していたベラも、後ろに視線を向けていた。

「……ベラ」

 その呼びかけに顎を引くだけで答えると、二人は木に寄りかかるのをやめ、森の奥を注視する。



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