Agitator V-2
「どう思う? アルバーメフ」
フードの下から手を入れ、枝毛を探すことに終始しているラスプーチンは、傍らに立つ巨人に声をかける。巨人、エステルらの前ではドミンゴと呼ばれていた男は、『アルバーメフ』という呼び名に反応する。
「……赤髪の女、一瞬手を腰に泳がせた。金髪の女も、瞬間的に腰を落とした。……閣下の言う奴らなのかは知らんが、ただの女ではない」
『アルバーメフ』は、鉄兜の中からくぐもった声で答える。すでにラスプーチン相手に敬語を使うことも止めていた。しかしラスプーチンはそれを咎めることもせず、ただ巨人の報告を聞いている。低くひび割れた巨人の声は、思い出した三人の女への警戒心を露わにするものであったが、ラスプーチンの声は対照的に、明るく、弾んでいた。事実、子供が我慢できずに漏らすような笑いを静かに立て、巨人を見上げているのだ。その様子は、アナスタシア姫に取り入って国政に参与する魔術師、というボルジア家重臣達からの評価とは著しくかけ離れた姿だった。
「成る程ねえ。流石だよ。どーも僕はそういうの苦手でねえ」
灰色のフードから放たれる言葉は、一層軽薄なものに変わっていく。ラスプーチンは視線を巨人から外し、俯いた。そして、そこでも楽しげな笑い声を漏らす。
「クク、ところであの背の低い女はどうなの? 僕の話も、よくわかってなかったみたいだけど」
心底楽しそうな様子のラスプーチンを、巨人は鉄兜の奥の瞳で眺める。ラスプーチンは俯いたまま、椅子に座る体勢を変える。いや、正しくは腰を強く前に出した、というところか。
「あの栗毛の女か。あの女は、まずい」
予想と反する答えが返ってきたのか、ラスプーチンは顔を上げた。くぐもった声がどこからか聞こえてくるが、それを気にせず彼はアルバーメフに続きを促した。
「……技術は、劣る。だが、天性のものが、ある。俺が扉を開けたとき、一番早く振り向いたのは奴だ」
「へー……」
返した言葉こそ適当だが、一瞬ラスプーチンの雰囲気は魔術師に相応しい悪意と邪悪に満ちたものに変わる。だが、机の下から聞こえる声が大きくなると、ラスプーチンの顔は百面相のように変わり、虫をなぶり殺しにする子供のそれに変わった。
「……女ってのは、怖いものですねえ、殿下?」
ラスプーチンの股の間、見事な刺繍が施されたテーブルクロスに隠れた机の下には、渦中の人、高貴な血筋であるアナスタシア姫が蹲っていた。
目にいっぱいの涙を溜めているのは、ラスプーチンの肉棒が彼女に口に刺さっているからだ。
「殿下みたいに、ついこの間まで処女だったような女が、今やこんな雌犬ですからね」
顔が裂けるのではないかというほど口を歪めて嗤うラスプーチンに、ぞくり、とアナスタシアに悪寒が走る。しかし同時に、彼女の股間からは一層愛液が滲み出る。被虐の恐怖と、興奮が同時に彼女を襲っているのだ。
「あーあ、会見中に僕をイカせろって命令したのに、全然ダメじゃあないですか。またあの貴族どもに輪姦されたいんですか?」
その言葉にアナスタシアは肉棒を咥えながら必死に拒絶の意志を示す。ラスプーチンによって淫らに変えられた彼女の体は二人の貴族を悦ばせ、その乱暴な責めを誘い延々と嬲られ続けていたのだ。その結果の消耗で、重臣を集めた会議中にも彼女は意識が朦朧としていたのだ。