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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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Agitator U-1

 通された部屋は、客間でも謁見の間でも無かった。巨大な長机が部屋の中央を占拠するその部屋は、会議室、と言ったほうが正しい。エステルたちをそこまで連れてきた兵士たちは室内に入らず、会議室内を警備している兵士に目配せして去って行った。

 エステルたちは兵士に促されるままに室内に入る。三人それぞれの表情を浮かべながらも、その視線は長机の先に集中していた。

 机の先、この部屋の上座となる椅子には、一人の男が座っている。

 尊大に。不気味に。

 室内だというのにフードをすっぽり被ったその男の名前を、エステルは聞かずとも理解できた。

(ラスプーチン……!)

 長机には、端に丹念に刺繍がなされたテーブルクロスがかかっており、ラスプーチンの下半身を見ることができぬが、その体全体を不気味な灰色の外套で覆っていることはわかった。

「法皇庁所属、シスター・ベラと申します。こちらは同じくシスター・エイダ、シスター・エステルで御座います。ミドルード城下に到着しましたところ、こちらの兵に促され参内した次第に御座います」

 一同を代表して、ベラが口上を申し立てる。腰を折り礼を尽くすのが様になっている。

 対する灰色の男は、フードに阻まれた表情は窺いしれぬが、声だけは友好的に苦笑してみせた。

「いや、いや。ご足労願って大変申し訳ありません、シスター。我が主、アナスタシア殿下が貴女方にお会いしたいと仰っていたのですが、突然体調を崩されまして、今は奥で気を養っているのです」

 申し立てる男に、ベラは殊更心配げな表情を作って見せ、かつアナスタシアの体調を綺麗な修辞を用いて気遣って見せた。後ろではエイダが半ば放心しており、放っておけば立ちながら居眠りをしかねない様子だ。

 その間に、ラスプーチンは有難いことにわが身が殿下から全幅の信頼を寄せられており、殿下が体調を崩したため直接ベラに会うことが叶わぬため、その代理を任されたことを説明した。

 確かに、アナスタシア殿下でも、その重臣でもなく、突如ラスプーチンがエステルたちと面会するのは甚だ不思議なことであったが、この説明で一応エステルは納得した。

 その後もエステルにとっては無意味であるような長い会話が続いた。ラスプーチンは彼女らに椅子に座るように勧めたが、ベラはそれを固辞した。--そのとき、エイダが悲鳴を上げそうな顔になっていたのを、エステルは見逃さなかった。

「それで、殿下は一体どのようなご用件で私どもなどにお会いなさろうと思われたのですか?」

 長い婉曲的な会話を経て、ベラが本題を切り出した。

 ラスプーチンは、計算か偶然か、ちらりとフードの下からその口を覗かせ、困ったような笑いの形を作って沈黙していたが、扉の前で控えていた警護兵を退出させ人払いをすると、語りだした。

「いえ、殿下は、ボルジア家の家督継承を強く望んでおられます。殿下の統治者としての素質は疑うべくもないものではあります。しかし、そのご年齢は高貴なる身なれど、悩みと悔いの多き身に御座います。そこで殿下は、家督継承の前に、神への懺悔でもってその身の禊と為さるおつもりだったのです」

 そこでラスプーチンは一回言葉を区切ると、エステルらの反応を観察するように黙った。ラスプーチンの会話から要領を得られぬエステルとエイダに対し、ベラは穏やかな表情を張り付けたまま、目に一瞬鋭い光が走った。それを確認したからなのか、ラスプーチンは言葉を続ける。


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