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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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Agitator T-1

 ミドルード城の一室。歴代の当主を実物より遙かに荘厳に描いた肖像画が並ぶ一室に、一同は顔を連ねていた。上質な木材によって作られた長机の先、この部屋の上座には今や一国一城の主となった娘、アナスタシア・アラゴン・ボルジアが座っている。彼女を沈痛な、あるいはやや怒気をはらんだ目で見つめるのは、ボルジア家の重臣たちだった。

「して、いかがなさるおつもりか? 殿下がこのボルジア家を継ぐと言っても、東のクーパは認めますまい」

 立ち上がり意見したのは、一同の中でもっとも老齢と思われる男だった。髪も髭も雪のように白くなっており、その瞳も何も映していないように濁っている。

「いや、それだけではない。帝国も、下手をすれば法皇庁も認めないかもしれませんぞ」

 老人の声に続いたのは、またも老人。二人ともボルジア家譜代の家臣であった。

 その声に返答をしたのは、上座に座るアナスタシアではなかった。

「……まあ、そうでしょうねえ。アナスタシア殿下は歴としたボルジアの血筋と雖も女性。家督継承に難癖を付けるにはもっともやりやすい。クーパの弟は陛下と義兄弟。皇帝の息子は陛下の義理の息子ですから。それに、陛下が病弱を理由に出家させたカール殿下を法皇庁が擁立してくる可能性もあるでしょう」

 その言葉を発するは、アナスタシアの隣に立つ異様な男。灰色の外套とフードを、室内であるのにすっぽりと被る男だ。その男に対する重臣達の眼差しこそ、怒気を孕む眼の正体だった。

 卑しい身分でありながら、彼の言葉は的確であった。家督継承は男にしか認められたことがない。そして外交安定のために大国間では相互に政略結婚を行っているため、ボルジア家当主が正式な後継者共々暗殺された今、アナスタシア以外にもボルジアの家督を継げる人間は存在するのだ。

 一つが東、クーパ家当主たるフィリップ・ド・クーパが弟、ルイ・ド・クーパである。彼は暗殺されたボルジア家当主のフェリペの妹と婚姻関係にある。二つ目は更に東、帝国皇帝フリードリヒの次男カスパーだ。こちらはフェリペの娘を妻としている。最後は生まれたときから病弱で、歩くことすらまともに出来なかったためにフェリペによって出家させられたアレハンドロだ。現在でもその体は弱く、とても政務を実行できる物ではないが、法皇庁が傀儡とするには丁度良い人間である。

「……いっそ、戦いが避けられぬのなら大国に保護を求めては如何か? クーパなり、皇帝なりに」

 そう提案したのは末席に座る男であった。本来ならば目前にいるアナスタシアに対する不忠と取られかねない発言であったが、それを表だって咎める人間は現れなかった。

 それもそのはずで、この席に着く人間達の眼には、等しく保身という愚かしく醜い感情が宿っていたからである。彼らは若く、政治に疎く、--そして女であるアナスタシアを君主として仰ぐことに不満と不安を抱いているのだ。更に、大国から家督問題に介入されて戦争などになってしまえば、彼らが座して得られる特権は減少するか、消滅してしまうのだ。

 寄らば大樹の影。故に彼らは大国の下に寄り添い、寄生したがる。その特権を守るためなら、簡単に君主を捨てることも躊躇わないのが貴族であり、そしてこの乱世だ。それに、彼女に対する不敬に値するかもしれぬ発言を耳にしてもぽかんとしているだけのアナスタシアを前にすれば、沈む船から逃げ出す鼠の気持ちがわかるというものだ。

「と、申されましても、一体どの国に保護を求めるので? クーパの当主、フィリップ・ド・・クーパは苛烈な人物であると聞きます。先の戦では主君を裏切って投降したカスティーリャの家臣を皆殺しにしたとか……果たして我々が保護を求めるに足る人物で?」

 小馬鹿にしたようなラスプーチンの問いに、男は激昂した。


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