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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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Rasputin V-1

 先に門前に到着し、二人を待っていたエイダに合流し、一行が法皇庁から発行された教会の補充要因であることを示す書状を差し出すと、門番は疑り深く、そして好色な顔つきで一同の体を眺めたが、いくら書状を検めても不審な部分が見つからないため、彼女らを通した。
 
 門をくぐれば、そこは一挙に大国と名高いボルジア家の城下町、ミドルードである。ボルジア領の中心地であり、事実上の「首都」だった。彼女らにはすぐさま都市の中心部に巨大な城が見える。それこそがこの城塞都市の核となるミドルード城であった。

 ミドルードの城下は、法皇のお膝元たるラテル=アノに比べればその荘厳さや活気は劣るが、立ち並ぶ商店の数や、きちんと整備された道は流石ボルジア家たるやというものだった。領主が内政に力を入れているかどうかは、その眼下である城下町と、道が整備されているかを調べればすぐにわかるのだ。

 それらの様子をさりげなくベラは調べながら、目的の教会へと向かう。一同はしばし無言で教会への道のりを歩いていたが、そのうちエイダが我慢できずに口を開いた。

「なあ、人間はどこにいったんだ?」

 彼女の不思議ともとれる呟きは、ミドルード城下の様子を見れば人目で理解できるだろう。

 人が歩いていないのだ。

 時刻は昼時。これほど大きな都市であれば、昼夜問わず人々は眠ることなく活動している。日が昇っているうちは商人が身を粉にして働き、夕暮れを過ぎれば酒屋が一日の疲れと鬱憤を晴らす男どもの叫びと笑い声に包まれる。そして夜遅くになると、ようやく酒盛りを終えて帰宅していく。都市はしばし静かになるが、日の出前には教会の聖職者達が目覚め、朝の祈りを済ませて一日の仕事を開始する。

 それが都市であり、これはどこでも代わりがないはずである。それが今三人の眼前には、立派ではあるが扉を閉め切り、中からもなんの活気が溢れてこない商店がずらりと並んでいた。そして本来なら目当ての商品を探し、この通りをうろつくであろう町人達が一人もいないのだ。まるでゴースト・タウンのような有様であった。

 エイダの問いかけにベラもエステルも答えられぬまま呆然としていると、通りの向こうが俄に騒がしくなった。整備された道の向こうから、多数の人間がこちらに向かってくるのだ。三人はやっと人間に出会えたことにほっとしていた様子だったが、すぐにその表情を不審げに曇らせた。

 視線の先から近づいてくるのは、町人でも迎えの聖職者達でもなく、甲冑を着込み剣を腰に帯びる、武装した集団だったのだ。甲冑の胸に刻まれた紋章からするに、ボルジア家の兵士であろう。彼らはまっすぐにエステルらの前まで来ると、高圧的に話しかけてくる。

「うぬら、余所者の尼僧だな。一体この街に何の用だ」

 都市の中ということもあってか、問いかけた男達は兜までは装備していない。その刈り込まれた黒髪の男は、無感情な瞳を三人に向けている。

「私達は、ラテル=アノよりミドルード教会への補充要員として派遣されてきた尼僧ですわ。ここにそれを証明する書状が」

 男達との交渉役は、ベラが務めた。もっとも、エイダは我関せずとそっぽを向いていたし、エステルは明らかにこのようなことに向いていないから彼女が自らその役を買って出たのだが。

 男はベラの手から乱暴に書状を引っ掴むと、書状と三人の顔を交互に検分する。不快な行為にエイダとエステルは顔をしかめたが、ベラだけはにっこりと穏やかな表情を浮かべていた。

「成る程。確かにこの書状は本物のようだ」

「でしたら、もう行ってもよろしいでしょうか? 赴任先の神父様に挨拶を済ませなければなりませんので」

 男の手からベラが書状を奪い返そうとしたが、ひょいと手を挙げた男のせいでベラの手は空を切った。代わりに、ベラの細い腕を男ががっしりと掴んだ。

「なに、そう急くな。貴様ら尼僧に、姫君が会いたいと申しておる。城まで来てもらおう」

 そう語る男の顔はにやりと嫌らしくゆがんでいた。エイダが男の態度にかちんと来たようで、すぐに突っかかろうと身を乗り出したが、それをベラが目線で制した。

「……わかりました。殿下にお会いしますわ。ですから手を離してください」

 そう言われると、その答えに満足したのか、男はゆっくりと手を離した。


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