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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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お嬢と爽やかと冷静男-9

「そ、そうです! もうサービス精神も何もなくいきなり核心に触れますが、あの変態が呆れるほどしつこいので、あきらめてもらうために、これからわたくしの彼氏として振る舞っていただけませんかっ?」
「なっ……」
 本気だろうか。少なくともいつものように巫山戯ているようには見えない。
 だとすれば。
 もう驚きなどはるか後方に通り過ぎて、ただ呆れるしかなかった。
「……おい、ひとつ言っていいか?」
 なんてくだらない。ため息すら出ない。
「自分で断れ。甘えるな」
「ですけどっ――」
「いいじゃないか、あの爽やか、頭も性格も良さそうだったし。お似合いじゃないのか」
 他人の色恋ざたになんて微塵も興味はないし、ましてや彼氏のふりなんてことは出来る訳がない。だいたい、やつがストーカーだと言う遠矢の発言すら信憑性は限りなく――

「やぁっと見つけましたよ桜子さんっ! 今まで緻密(ちみつ)に調べた行動パターンから推測して、ここにいると思っていたんですよ! ――これぞふたりの愛の奇跡!」

 さっきも聞いた声だ。声のするほうを見れば、やはりと言うかあの爽やか男子がいた。
 ……限りなく、限りなく真実に近いらしい。
 さすがにもう疲れたのですがまだこの辛苦は続くのでしょうか。続くんでしょうねそうでしょうね。だいたいよく考えてみれば今現在、僕の周囲にまともな人間がいる訳がなく、その知り合いとなればやはり変人に決まってる。
「……遠矢、この際お前でいい。――助けてくれ」
「わたくしも助けてほしいです……」
「……最悪だ……」
 遠矢は半歩下がってうなだれ、僕は目を手で覆って天を仰いだ。
「んんんっ? そ、そこの君ッ!」
「……ん?」
 僕のことだろうか。だとしたらかなり嫌なのだが。しかし、遠矢のことは《桜子さん》と呼んでいたからにはおそらく僕なのだろうけど。それでも、呼ばれているのは別の人物というひと握りの希望に賭けて、周囲に僕以外の呼ばれそうな人がいないか見回す。で、結果は何と言うか。
 誰もいない。
 分かっていた。どうせ無駄だろうとは思ってはいたが、
「さすがに直接突き付けられるとつらいな……」
「ちょっといいかなっ、そこのつぶやき君っ。さっきから君を呼んでいるんだけどねぇ!?」
「……。……なんだよ」
 ありったけの敵意を込めてにらみつけてみた。しかし伊原だったかはまったく気にした様子もなく、
「君はどこの誰だい? はっきり言って、邪魔なんだけどねっ」
 擬音で表現するなら《ビシィッ》といった動きで僕のことを指差した。
「……今日は失礼なやつの見本市なのか?」
 思わずつぶやく。
 呪われているのかも。かなりキツいやつに。

 爽やかは指を差したままピクリとも動かない。僕も答えない、面倒だから。遠矢も半歩さがったところから傍観するだけで、説明を入れようともしない。
 そのまましばらく沈黙と停滞が周囲を支配して、
「……そこの君、言っていることが分かるかい。邪魔なんだよ、君は。ぼく達ふたりにとってね。だから素直に消えたまえ」
 最初に沈黙を破ったのは爽やかだった。しかし《ぼく達ふたりに》の辺りで遠矢が露骨に嫌そうな顔をしたのに、どんな神経をしているのか、それについては特にコメントしなかった。
 ともかくとして今日はこれ以上、面倒なことには関わりたくない。ここは素直に従おう。
 だから遠矢に目線だけを向けて、
「――と言うことらしいんだが、帰っていいか?」
「だ、駄目ですよっ。一緒にいてくださいっ」
 めずらしく弱気な、切羽詰まったような声。しかも僕の制服をしっかりと握り締めて放さない。
「しかしだな。昔から、人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死ねって言うじゃないか。――正直、まだ死にたくない」
「な、何でこんなときばかり古い常識を持ち出すんですか!?」
「……個性だ」
「――っ、幸一郎さんの馬鹿っ! 巫山戯るのも時と場合を考えてくださいっ」
「お前、今日はやけに五月蝿いな」
「怒りますよっ……?」
 返事はため息。どうもこいつはわがままが過ぎる。
「って、ちょっ、ちょっと待ちたまえ! 君はさっきからぼくをのけ者にして、さらに桜子さんと馴々しく会話までして! 君は何様のつもりかなっ?」
「いや、何様というか、僕は無理矢理ここに――」
「うるさい黙りたまえ言い訳は聞かないよ! ぼくにはすでに真実は見えているんだ。ずばり君は、――桜子さんに付きまとう変質者だね! ふふふ、桜子さんが変人に困らされていることは知っているんだ!」
 密室殺人の犯人を見つけた絶滅危惧種の名探偵のように、再び演技のような仕草でビシッと指を差す。
 当然、僕を。


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