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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-8

「……っと、昔の傷を開くために来たんじゃなかった。ふふ、世の中は危険な脇道がいっぱいで、毎日のスリルには事欠かないね。ああ、素晴らしきかな危険世界」
 薄笑いを浮かべながら語るその様は軽くイッちゃてること間違いなく、できればあまり関わりたくない。
 普通の人ならば流すだろうが、しかし、凛には自分に向けられた言葉を無視するなどという失礼なことはできなかった。
 かと言って上手く返せるほど口が達者なわけでもないので、曖昧な返事でなんとか場を保たせようとする。
「えっと……そ、そうなの?」
「んなわけないよ。Mっ気のあるやつならともかく、普通は危険なんてのは無いに越したことはないし。さっきのは冗談。いちいち全ての話を真に受けてると社会に出てから大変だから、今の内に疑う癖を付けといたほうがいいと思うけど?」
「……」
 にべもない。
 これにはさすがの凛もムッとしたが、顔には出さないよう努める大人な凛だった。
「で、話を戻すけど、OK?」
「…………うん」
 なぜか笑いを含みながら聞く御幸。それもそのはず、凛の思いとは裏腹に、実際は思いっきり表情に出ている上に、それを堪えようとしているのがバレバレなのだ。
 まだまだ子供な凛だった。
「ふふ。いいねぇ、若いってのは」
「……御幸くんも同い年だよ」
「精神年齢の話さ。そこいくと鈴くんといい勝負だね。……病んでるけど」
 御幸の言葉で思い出したが、さっきから壊れた拓巳を放置しっぱなしだった。
 そちらを見ると、依然として目は虚空を泳ぎ、見えない何かと談笑していた。まだあちらの世界から帰ってきていないらしい。
「ねえ、御幸くん。コレ、何とかできないかな?」
「うーん、さすがの俺でもコレはちょいとばかし……」
「でも、このまま放ってはおけないよ」
「いや、残念なことに俺は造るのは得意だけど、直すのはあんま得意じゃないんだな」
「……そうゆうものなの?」
「俺が言ってんだからそーゆーものなの」
 などと会話を繰り広げていると、ふと視線を感じた。隣から。
 それに気付いた凛がそちらを見ると、視線の主は言わずもがな拓巳だった。
「あ、戻ってきたんだね! よかったぁ、心配したんだよ」
「ん、やあ鈴くん。やっと帰還かい? なんとか自力で直ったみたいだな。手間が省けてよかったよかった」
 二人にしてみれば祝福の言葉なのに、なぜか拓巳は浮かばない顔をしている。むしろ、浮かばないどころか沈んでいる。
「……」
「あっれー? なんだかゴキゲンが傾斜角九十度ぐらいの斜めっぷりだね」
「……御幸くん、それだと垂直で斜めじゃないと思うよ?」
「あーっ……言葉のあやってやつ? そうじゃないかな、冬月さんもそうだと思うよね。ね? なら絶対にそうだな。うむうむ」
「そ、そうなんだ。すごいね」
 見事なまでの自己完結に、呆れと同時にある種の感動すら覚えてしまう凛だった。
「で、閑話休題にしたいと思うけど、我が親愛なる友、玩具と書いて『しんゆう』と読む被虐少年、実はいじめられるのも楽しいんです、ってな鈴くん。どうしたよ?」
 不名誉この上ない。当然、拓巳は何も答えず、ひたすらに重たい空気の生産に勤しんでいる。
 そして、凛はそのやり取りを見て、ようやく周囲の意見を事実として学んだ。
 曰く、御幸に一般論や常識を期待してはいけない。
 そして、新たに生きぬく知恵を付けた凛はこうも思った。
 やったぁ、これでまた一つ利口になっちゃった、と。
 ……現実逃避中。
「おーい、聞いてるかい? もう話戻しちゃうぞー。そう、鈴くんが聞いたら恥ずかしさのあまり自分で穴を掘って入りたくなるような暴露話に。いまさら泣いて頼んだって無駄だけど、袖の下なら随時受付中だよー」
 そうやって凛が現実から目を逸らしている間も、御幸はどこからともなく取り出した物差しで拓巳の頬をぺしぺしと軽く叩きながら言う。
 暴露話などしていなかったが。
 しばらくそうしていた御幸だが、拓巳から何の反応もないので諦めたらしく、演技がかった仕草でため息を吐いた。
「ふぅ、だめか。何でこんなに落ち込んでるんだ?」
「……」
 お前のせいだ、とは思っても口には出せない凛だった。
「うーん、それにしても……」
「どうしたの?」
「んー……なんつーのかなー」
「?」
 なんだかはっきりしないが、感覚的にこれから変なことを言いだすだろうことだけは分かった。
 精神の安定のためには分かりたくはなかったけど、分かってしまったものはしょうがない。諦めて御幸が続きを話すのを待つ。


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