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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-14

 すると、つばさが僕の制服の袖をクイクイと引っ張りながら、
「ねぇ、さっきからジョウジとかイトナミとか、何の話?」
 怪訝そうに聞いてきた。僕を見つめるその表情は、本気で分かっていないらしい。
「……気にすることじゃない。戯言だ」
「そうなの?」
「ああ」
「……本当?」
「嘘をつく理由が無いだろ」
「……じゃあ信じてあげる」
 じゃあって何だ、じゃあって。とは思ったが、僕はつばさと違って分別のある大人だから口には出さない。
 口に出さない代わりに鞄の中からタバコを取り出して、一本くわえる。
 そして火を点けるために百円ライターを探したが、鞄の中には無い。
 それならポケットの中に入れっぱなしだったかと探っていると、不意に唇の辺りに細い指が近づき、くわえていたはずのタバコの感触が消えた。
「……」
 そして数秒遅れて、さっき見えたのはつばさの指で、タバコを奪われたのだということに気が付いた。
「……返せよ」
「ダメ」
 速答。しかしダメと言われただけで、はいそうですかと引くつもりはない。
「何でだよ」
「ダメだから」
 またもや速答。
「……理由になってないぞ」
「そんなの知るわけないじゃん! 人間には分からないことがたくさんあるんだよ!」
 いきなりの逆ギレかよ。ふざけんな。意味分かんないし。
「……まあいい。今すぐ素直に返せば怒らないぞ」
「むぅ、そうやってすぐに人を子供扱いするのは良くないと思うなぁ。何て言うか、人に物を頼む時の態度じゃないよね。接客の基本はいつも笑顔に平身低頭だよ」
「接客は関係ない。いいから返せ」
「ダメだってば。いっちーがちゃんと心を入れ替えるまでは返しませーんっ」
「……」
 何だか偉そうだ。こんな時のつばさを相手にしても無駄に体力を浪費するだけだろうから、あの一本は諦める事にした。
 そして、新たにもう一本タバコを取り出すため足元に置いた鞄へ手を伸ばす。
 しかし、無い。
 手は空を掴んだだけで、確かに置いてあったはずの鞄が見当たらない。
「ふっふっふ、いっちーの単純な考えはお見通しだよ」
 見ると、いつの間に取ったのか、つばさが僕の鞄を持ちながら不適な笑みを浮かべていた。
 ……まったく気付かなかった。
「ほらほーら。返してほしい〜? ――っと危ない危ない」
 奪い返そうと手を伸ばしたが、ギリギリ届かなかった。
「……このっ」
「そんなんじゃ届かないよーだ」
 完全にバカにされている。
「……」
 鞄に向けてさらに手を伸ばそうと、僅かに椅子から腰を浮かせた瞬間だった。
 背中の辺りに何かが当たっているのを感じて、それが誰かの手だと気付いた瞬間、
「――え?」
 押された。
 そんなに力強くではなく軽く押された程度だったが、タイミングが悪かった。
 立ち上がろうとした瞬間で不安定な態勢だった僕は、
「うおっ!?」
「きゃっ!」
 見事にバランスを崩した。しかも、つばさの方に向かって。
 まずいと思ったが咄嗟の事で体か動かず、そのまま二人とも倒れこむ。
 急激に床が迫り、押したままの姿勢の遠矢を視界の端に認めた。そして、もうすぐ来るであろう衝撃に全身を強ばらせる。
 来た。
 だが、それは思っていたよりも軽く、大したことはなかった。全然痛くなかったわけではないが。
「つっ……」
「きゃー、幸一郎さんたら押し倒すだなんて強引ですね!」
 自分でやっておきながら……!
 打った膝が痛かったが、起き上がるのに支障はないことを確認すると、ハイになっている遠矢に文句を言うために体を起こす。
 その時、両手が何か柔らかく不思議な感触の物に触れていることに気が付いた。
 それは明らかに、冷たく固い教室の床とは違う感触。
 何だろうかと思い、自分の手元へと視線を下げる。
 そこには、遠矢が言うように僕が押し倒したような姿勢で倒れたらしく、つばさが横になっていた。そして、僕が手をついていた場所は――
「っ!?」
 何を掴んでいるか理解した瞬間、心臓が跳ね上がり、顔から火が出るかと思った。
 それと同時につばさが目を開けた。まず始めに不思議そうに僕の顔を見上げ、それから僕の手が置かれている場所に視線を移し、
「――!」
 顔を一気に朱に染める。僕は必死に言い訳をしようと口を開いたが、それより先につばさが動いた。
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
 耳をつんざくような悲鳴と、視界の左端、死角になっていた右手から掬い上げるような平手。
 位置、速度ともに完璧でろくに回避もできず、顎にイイのが入りました。
 その衝撃でくるりと首が回ったのを感じ、僕は再び地に伏せることになった。
 近くで戸が開く音を聞きながら。


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