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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-12

 参/刹那の邂逅(かいこう)および痴漢疑惑と部室探し

 それは、いきなりのことだった。
「――どうだったんですか、と聞こうかと思ったのですけど、そんな必要は無いみたいですね。ふふふ、仲良きことは美しきかな、ですね」
 部室に入ってきた僕とつばさの顔を見るなり、椅子に座っていた遠矢はとても嬉しそうに、本当に気持ち悪いぐらい嬉しそうに、そう言い放った。
「……何が言いたい、妄想女」
「あら、何って、それをわたくしの口から言わせたいんですか? そんな惚気を手伝うほど暇ではないのですけれど」
 呆れ顔でため息を吐いたりしているが、どこからどう見ても暇そうな遠矢。
 よく分からないが、いつもの如く、変にハイになっていることだけは分かる。
「それよりも、いつまでもそんなところに立っていないで、お座りになったらいかがですか?」
「……」
 にっこり笑顔が作り物臭い。確実になにか裏がある。それも、僕としては断固として避けたい部類に入るようなものが。
 帰りたかった。今すぐに回れ右をして自転車を最高速で飛ばして帰りたかった。
 しかし、そうは問屋が卸さない。問屋が何かは知らないが。
「そうだよいっちー。入り口に立ってても邪魔なだけだし」
 僕の帰宅願望など素知らぬ風に、つばさは悩んでいる僕を置いて先に椅子に座ると、そう言った。
 そして――
「ほら、いっちーも座りなってば」
 そう言いながら、自分のすぐ隣にもう一つパイプ椅子を並べて、やや嬉しそうに僕を手招きしている。
 冷静に見て、その椅子はかなりの至近距離にある。座れば、隣の人と肘がぶつかりそうなぐらい近くに。
 まさかとは思うのだが、座れというのはそこにだろうか?
 それ以外を指しているかもしれないと辺りを見回したところ、現在空いている椅子は三つあった。
 一つは黒板の前にある、赤い文字で『部長専用・三倍。刻が見れます』と書かれた紙が背もたれに貼ってあるもの。だが残念なことに、椅子本体は普通の色で赤くない。
 あれは書かれている通りに長谷部専用なのだろうから除外。今はどこが三倍なのか無視するとして。
 もう一つは窓際、男物らしい上着が掛けてある。
「――ああ、その服は五十嵐先輩のですよ。よく分からないですけど、いつも掛けてあるんです」
 僕の視線に気付いたらしい遠矢が説明してくれた。よって、あそこも指定席のようなので除外。
 残るはつばさの隣の一つのみ。やはり、あれに座れということなのだろうか。
 だがしかし、早計は失敗を呼ぶ。僕は急がば回れ精神を発揮すると、黙って様子を見ることにした。
 ……、待つ。
 ……、……。
 数秒待ってみたが、やはりそれ以外に椅子は見当たらず、つばさも相変わらず微妙に期待のこもった視線を向けたままだ。
「座んないの?」
 ……マジすか。マジみたいっすね。
「ふふふ、どうしたんですか? まさか、まさかとは思いますが、照れ――」
「黙れボケ女」
 遠矢が何か言い掛けたのを、ほとんど条件反射で遮った。
 何を言おうとしたかはよく分からないが、どうせロクな事ではないだろうから、そのまま気にせずに行くことにする。
 もはや僕は遠矢の余計な一言を未然に防ぐ技術に関してならば部内、いや、校内一と言っても過言ではないかもしれなかった。
 いや、それはさすがに過言だが、上手いほうではあると思う。
 微妙に実用性が無い上に、僕以外に持っている奴が何人いるかすら分からないスキルなのが悲しいが。
「……幸一郎さん、ひどいです」
「お前が喋ると面倒なんだよ、色々と。だから話すな近づくな」
「なっ……! ふ、ふふふっ、いいですよ。わたくし心が広いですから、これぐらい気にしませんから。ええ、気にしませんとも」
「……」
 たぶん嘘だ。こめかみの辺りに青筋が浮かんでいるし、目が殺意に燃えている。
 まあ、本人が気にしないと言い張るなら、僕に言えることは何も無いのだけれど。
「……座んないの」
 そんなことを考えていたら、不機嫌を隠そうともしない声で呼び掛けられた。
 ――まずい、忘れてた。
 自分の血が引く音が聞こえた気がしながら振り向くと、つばさは思ったとおりの表情で僕を見ていた。


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