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忘れ得ぬ人/追憶の日記から
【同性愛♀ 官能小説】

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同じ心-5

 帰りの電車の中で、震えながら包装を解いて箱を開けてみると、精巧に作られた楕円形のロケットが入っていました。直ぐに開きそうに見えながら、平らなペンダントのようにしか見えず、開けることができませんでした。
 チェーンを首に回してロケットを乳房の間に落とすと、その冷たさが別れを強いるような痛みとなって胸に刺さりました。
 
 天才たちが集まる学校では、私の才能などいかに小さなものかを思い知らされ、とっくにピアニストの夢などは打ち砕かれておりましたので、「彩乃がピアニストになって、奈津子はマネージャーになる・・・」と言ってくれたお姉ちゃんの言葉さえ腹立たしく、けれど、恋しくて、恋しくて、お姉ちゃんとの想い出が果てしなく襲ってきて私を苦しめました。
 気が付いてみると、自分で無理矢理に記憶のジグソーパズルのピースを剥がしていて、やがて一挙に崩れ落ち、ゴミとなってしまったピースが腐臭を放つようになっていく映像が頭の中を駆け巡っていました。そして、白紙になってしまった台紙のように、カラッポになってしまった心には、もう、新婚の夢から始まる新しい記憶なんて描けないのだと思うと、一日中、ぼんやり空を眺めながら、おいしくもない柿の種を歯ぎしりするように噛み砕いているだけの空しい毎日を過ごしておりました。
 とはいえ・・・、あれほど激しく睦み合い、お姉ちゃんのツユにまみれて幸福の絶頂を味わっていたこの部屋にいるかぎり、お姉ちゃんのおしゃべりの声、歓喜の叫び、笑い顔、愛しそうに私を見る目が私にまとわりついてくるのは当然でした。それは、自分で崩してしまったピースの一枚一枚を拾い集めていることであり、捨てられない記憶であり、お姉ちゃんを恋しいがり、懐かしんでいる姿でもありました。
<キット彩乃のもとに帰るから、信じて>と言ったお姉ちゃんの言葉を拾い上げたとき、「彩乃、帰ってきたよ」と、今日にも急にドアが開くような気がしたこともあります。「一度結婚したんだから、もう親も納得したでしょう。うまく離婚してきたわ」と、自分に都合のいい想像もしました。
 結婚していてもいい。お姉ちゃんに逢いたい、長野に帰りたいと考えだしていました。それは、もう一度、崩れたパズルを組み立て直してみようという気力だったのかも知れません。ベッドに掛けて私を見つめているお姉ちゃんの幻が見えたこともありました。それらが少しずつ私の荒れた心を静めていったのでした。

 ある日・・・母から、奈津子お姉ちゃんが亡くなったという知らせがありました。結婚してまだ半年も経たないのに、その余りにも突然の死が信じられず「悪い冗談はやめて!」と母に叫んでおりました。
 母が言うには、お姉ちゃんは食ものが喉を通らなくなっていて、おばさまから相談されてお見舞いには行ったが、見る影もなくやつれ、自宅で寝たり起きたりだった。旦那さんはもう居なかった。お姉ちゃんを病院に入れたときにはもう手遅れの状態で、お腹の子と共に亡くなった・・・そう言う内容でした。


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