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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-9

 手酷く扱われたこの時から、感情を出すのが苦手になったと思う。
 この男は、感情を出せば出すほど喜んでフラウをいたぶったから。
 それから日々、体を弄ばれた。
 自分の体を自分以外の人間が蹂躙する事が日常茶飯事となり、少しずつ感情の発露を失っていった。
 男がフラウを真っ当に育てたのは純粋に商品価値のためだったから、彼女が次第に無表情になっていってもなにがしかの対抗手段をとったりはしなかった。
 そして人未満の生き物として扱われるのに慣れた頃、大公爵に買い取られたのだ。
「ふむ……面白い経歴の持ち主だな」
 男は、感慨深げに呟いた。
「ますます気に入った……これくらい風変わりな経歴の女の方が面白い」
 男は、フラウの宝石に口づける。
「……マイレンクォードよ」
 小さな声で、男は呼びかけた。
 その声は小さすぎて、フラウにすら聞こえない。
「……感謝する」
 男は立ち上がり、部屋の隅へ歩いていった。
 そしてその手に、一振りの剣を持ってやって来る。
「……殺しはしない」
 男は、ニヤリと笑った。
「一撃で仕留めたら、面白くもなんともないからな」
「……」
 せめてもの抵抗として、フラウは男を睨み据えた。
「いい目だ」
 そして男は……剣を振るった。
 フラウの左肩に、刀身が食い込む。
 皮膚を裂き、肉を断ち、骨を砕き、左腕はもぎ取られる。
「っひゃははあああああ!!」
 大量の返り血を浴びた男は、喉から哄笑をほとばしらせた。
「いい色だ!いい血だ!お前、最高だぁ!!」
 男は、すぐに出血の止まった肩口にかぶりついた。
 そのまま、フラウの肩から肉をむしり取る。
 乱暴に咀嚼して肉を飲み込むと、床の血溜まりを啜った。
「っははぁ……さすがだ。腕の再生さえ可能だとはな」
 男は、盛り上がり始めた腕の傷口に噛み付く。
「マイレンクォードに頼んだ」
 口を放し、男は言う。
「お前が死なぬよう、精神崩壊の予防と肉体再生を重点的に行ってもらえるようにな」
 気が狂う事も死ぬ事も許されず、男の気の済むまで弄ばれ続ける。
 それが、自分に課せられた運命。
 苦痛を堪え、フラウは目を閉じる。
 苦しみを晒すのは、この男を喜ばせる事でしかない。
 ならば耐え抜くのが、自分にできるせめてもの抵抗だ。
「……どれだけ耐えられるかな。楽しみにしているぞ」
 男は左腕を拾い上げると、立ち上がった。
「今日の所はいい肉が手に入ったからな。美味い飯が作れそうだ」
「……!」
 切り落とした左腕を料理し、食べる気なのだ。
 この男は。
「死なれたら困るからな。お前にも、たっぷり食ってもらう」


 目覚めれば、自分を包み込んでいる肉体をまず意識した。
 張り詰めた薄い皮膚の下にしなやかな筋肉を内包した、自分によく馴染んだ躯体だ。
「は、あ……」
 全身が熱っぽくけだるいのは、何故だろう。
 ジュリアスの体にそっと身を擦り寄せてから、深花ははたと気づいた。
 気絶する前の、恥ずかしい行為に。
「……!」
 慌てて体を離し、目線を上にやる。
 眠っている事を示す、浅くて規則正しい呼吸。
 その気性故にだいたい皺が寄っている事の多い眉間も今は険が取れて、実に穏やかなものだ。
 高く通った鼻筋と僅かに開いた唇、頬に落ちかかった漆黒の髪。
 頭上にあるジュリアスの顔は、見れば見るほど綺麗だった。


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