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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-38

「その事、後の三人は知ってるのよ……ね?」
「うん。お医者様が診察してる時に私の意識はなかったんだけど、目覚めた時にティトーさんからもう目は見えないって宣告食らった後で、バランフォルシュ様が目を返してくれたって言っちゃったからみんな知ってる」
 姿勢を戻しながら、ウィンダリュードは言う。
「……あんた、色々イレギュラーなのね」
 ウィンダリュードは、そう結論を出した。
 近年はダェル・ナタルでも珍しい、隣界ラタ・パルセウムとの混血。
 危険なまでに無警戒で、しかもそれをいい方に転ばせられる強運も持ち合わせている。
 その無警戒さが、何より危険だ。
 天敵としてこの女を殺そうと意気込んでいた自分が一つのベッドで一緒に寝ているのに、まるで敵意が湧かない。
 そこまで自分がほだされてしまっているのだから、元から深花と縁の薄いヴェルヒドに至ってはペットでも可愛がるような心持ちで接しているかも知れない。
「……あふ」
 わざと欠伸をして、ウィンダリュードは目を閉じた。
 バランフォルシュのたっての願いを聞き入れて一時休戦しているだけで、明日にでもサフォニー救出が済めばこの女とはまた殺し合う間柄だ。
 仲良くしたって、いい事は何一つない。
 そう思い直して眠り込むふりをすると、しばらくして深花の寝息が聞こえてきた。
 結界を消しながら、天敵の隣でよく眠れるものだと感心する。
 この平和ボケした気質を細かくフォローしているらしい男達の苦労を思い、ウィンダリュードは一人苦笑したのだった。


 その建物は教えられた通りのポイントに、木々の間へ隠れるように立っていた。
 全面頑丈な石造りで、風通しと採光を兼ねた格子付きの窓が所々にしか開いていないのを見ると、規模はともかくとして見た目はまるで要塞である。
 いや実際、要塞なのだろう。
 外からの異物を遮断してフラウとの蜜月を楽しむため、ザグロヴの歪んだ欲望を体現するためだけに建てられた要塞だ。
「さて、どうやって玄関をノックしてやろうか」
 ヴェルヒドは自分達と要塞とを隔てている下生えを眺めながらひとりごちて、ウィンダリュードを見遣る。
「イケるか?」
「任せて」
 自信たっぷりに一歩踏み出したウィンダリュードは、何かを呟きながら地面に手をついた。
 一瞬間を置いて、足元の下生えに隠されていたスネアトラップが次々と持ち上がる。
 単に草を結び合わせただけの簡易な物から大型の肉食動物撃退用の洒落にならない金属製の罠まで、よくもまあここまで撒き散らしたものだと一行は感心する。
「ここに篭る事を身内の俺達にすら知らせなかったという事は、あいつも今回の件が俺達の不興を買う事を承知しているという事だ。中に踏み込めば厳しい警備が待っているだろう……頼むから、足手まといにだけはなってくれるなよ」
 ヴェルヒドは女二人に警告しながら、手に嵌めたグローブを確かめる。
「では、僕が先頭に立ちましょうか」
 エストックを一振りし、デュガリアが言う。
「お二方は、お守りしたい方がいるでしょう。幸いにして今の僕は命以外に失いたくない物を持ち合わせていませんから、先陣にぴったりです」
「じゃあ俺が補佐に回ろう」
 そう言って、ティトーは小剣を抜き放つ。
 少し妙な顔をしたデュガリアだが、黙って頷いた。
「深花」
 ジュリアスは名を呼んで、彼女の注意を引き付ける。
「……」
 背を屈めてその耳元に囁いてやると、深花は真剣な顔で頷いた。
 逃げられないのなら、敵勢力に傷一つつけさせないよう守り抜く。
 ジュリアスの後ろに回って小剣を抜く深花は、囁かれた言葉に奮起した。


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