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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-20

「……先に自分を拭けよ」
「自分の顔色見てから言って」
 ぴしゃりと言い返した深花は、ジュリアスを拭き続けた。
 彼の顔色は、まだ白い。
 何回か水を搾りつつジュリアスを拭き上げた深花は、ようやく自分を拭き始めた。
 その頃には火の勢いが安定したので、ジュリアスは深花に言う。
「服、脱いで寄越せ。乾かすから」
 一行は短期間の活動を想定して準備をしてきたため、着替えは持って来なかった。
 今着ている物を乾かさないと、ここを出て行く際に着る物に困る状況なのである。
 既にジュリアスは剣を脇に置き、焚火に当てて服を乾かし始めている。
 揺れる炎に照らされた綺麗な顔に魅入ってしまってから、深花はおとなしく服を脱いだ。
「……!」
 闇の中に浮かび上がる白い肌を見て、ジュリアスは生唾を飲み込む。
 そういう事をするには不謹慎な状況だからそれ以上どうこうしたいとは思わないが、それでも視覚は強力だ。
 頭を掻いて動揺をごまかすと、ジュリアスは薪をくべる。
 下着姿になった深花は服をジュリアスに預け、自分の荷物を引っ掻き回し始めた。
 荷物の中から何かを取り出すと、ジュリアスの隣へ座った。
「はい」
 目の前に干し肉を差し出されたので、ありがたく受け取る。
 いかにも保存・携行食という塩の効いた味に、思わず荷物から革袋を取り出した。
 詰めてあった水を一口飲むと、深花へ革袋を渡す。
 深花も水を一口飲んでから、革袋に栓をした。
「……二人とも、近くにいるといいね」
「だな。ここに気づいてくれりゃ、言う事はないが……」
 幸先の悪いスタートを切ってしまい、二人の口は重かった。
 薪の爆ぜる音と外で降りしきるみぞれの音しか聞こえないまま、どれくらいの時間が過ぎたろうか。
 乾いた服を着込み、焚火に当たっているうちに深花の姿勢が怪しくなってきた。
 うつらうつらと船を漕ぎ始めたのを見て、ジュリアスは苦笑する。
 マントも乾いたようなので、自分のマントを下にして寝床を作ってやる事にした。
「先に休め」
 今にも上下のまぶたがキスしそうな様子の深花にそう声をかけると、緩慢な動作で首を振った。
「いいから。お前が寝ないと後で俺が休めねえんだよ」
 そう言われると、起き続けようとした努力を放棄する気になったらしい。
 上掛けのマントをめくって、もぞもぞと入り込む。
 すぐに、寝息が聞こえてきた。
 寝相は悪くないし寝言も静かなのは知っているので、これでしばらくは放っておいても大丈夫だろう。
 ジュリアスは立ち上がると、出入り口まで歩いていった。
 外の様子を窺うと、相変わらずの空模様である。
 闇夜に、じっと目を凝らす。
 不審な動きは、何もない。
「……ちっ」
 舌打ちを一つして、ジュリアスは焚火の傍に戻った。
 仲間とはぐれてしまったのは、手痛い事態だ。
 バランフォルシュが言っていたらしい協力戦線との合流ポイントからどれだけ離れてしまったのかすら、土地勘がない自分には分からない。
 いちおう隠密行動を貫いてはいるが、穴が崩れた際に轟音でも発していようものなら……自分達に、監視がついている可能性もある。
 その場合は準備が整い次第、殺戮部隊がやってくるだろう。
 わざわざ穴を開けてまで一般市民を送り込む事は、お互いにない。
 ましてや今回リオ・ゼネルヴァから乗り込んできたのは、たったの四人だ。
 天敵が自分達を既に見つけているなら、これは自信の表れと見て警戒する。
 天敵が手をこまねいているうちに仲間や協力者と合流し、フラウを救出する。
 果たして、そんな真似ができるかどうか。
「……できなくても、やるしかないだろ」



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