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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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オタクと冷静男と思い出話-6

「幸一郎さん、死ぬ手前だったからあっちの世界の人が見えたんじゃないですか?」
「……そう思うなら休ませてくれよ。お前の相手してるとマジで死ぬって……」
「まだ死んじゃダメですよ! 死ぬなら自分の思いを赤裸々に大暴露してから……!」
「……人の話を聞けっての」
 ああ、川と花畑が見える……。
 この世のものとは思えない川辺の綺麗な花畑で、祖父と奇跡のご対面しかけていたら、桜子の声でこの世に引き戻された。
「あ、ところで幸一郎さん」
「……」
 だが、何となく腹が立つので無視。
「あの、冷血美少年さん?」
「……」
 怒りが顕著になったからさらに無視。
「……失恋暴走男」
 ボソッ。
「……って、なんだよそれは。ケンカ売ってんのか?」
 さすがに無視できずに上げた抗議の声を、仕返しのように無視して続ける桜子。
「やっと反応してくれましたね。ところで、さっき台所で何かあったんですか?」
「何もない。あったとしても教えない。教えてほしいなら態度を改めろ」
「あら、わたくしの態度に至らないところがありましたか?」
「……あるだろ。いちいち数えるのが面倒なほど」
「え、今なにか呟きませんでしたか?」
「空耳だろ」
「そうですか? 何か聞こえたような」
「そんなに心配なら、病院行った方がいいんじゃないか」
「……なんだか幸一郎さんの一言って」
「何だよ」
「表情の変化が乏しいから、冗談か本気か判断しづらいですね」
「知ってる。つばさにもよく言われる。てゆうか、今さらそれを言うのか」
「今さらっておっしゃいますけど、会ってから今日でまだ二日ですよ」
「初見で脅迫したやつがそれを言うか?」
「失礼ですね、あれは脅迫ではなく公正な取引のつもりだったんですけど?」
「意見の相違だな」
「人が複数いれば、それも当たり前のことですよ。その上でお互いの意見を……」
「長谷部みたいな物言いだな。よく口が回るのは文芸部の基本技能か?」
「部長なんかと一緒の扱いにしないでほしいんですけど」
「……向こうも同じ気持ちだろうな」
「……今度はちゃんと聞こえましたよ。どういう意味ですか」
「聞こえたのか、それはおめでとう。だけど深い意味はない」
「なら浅いのはどんな意味ですか?」
「聞いたままだ」
「……」
 沈黙と静寂。
「……」
 まだ沈黙。
 ややあってから、
「あっ」
「どうした?」
「なんだか、初めて幸一郎さんとまともな会話をしたような。人類って分かりあえるんですね!」
「……その発言だけでも十二分におかしいと思うんだが、どうだろうな」
「え?」
「何でもない、気にするな。許容ゲージは表面張力だから、不思議発言はこれ以上入らないぞ」
「……殴って、いいですか?」
「誰が言ったか知らないが『男は殴れ、女は撫でろ』だそうだ。だから撫でるべきじゃないのか?」
「それは、男には厳しく、女には優しくって意味であって、別にそれをやれって事じゃないと思いますよ」
「へえ、慧眼だね。恐れ入るよ」
「つまり、幸一郎さんは男だから殴ってもいい、って事ですね」
「僕としては、女性は慎ましく、が好ましいけどな」
「好みは聞いてませんし、今の時世は男女平等ですよ」
「なら殴ればいいさ。平等にカウンター入れてやるから」
「……人でなし。か弱い女の子を殴るつもりなんですか?」
「自分でか弱いとか言うのはどうかと思うんだが」
「じゃあ百歩譲ってか弱くないとして、女の子を殴るつもりなんですか?」
「男と平等に扱ってほしいならな」
「まったく、口が減らない方ですね」
「それはお互い様じゃないか」
 同時にため息。
 喋りすぎたので疲れたが、まだ意外と元気が残っていたことに驚いた。自分自身で思っているほどには、傷ついていないのかもしれない。
 ……ああ、でも嫌いって言われたしな。明らかに怒ってたし、最悪の場合はずっとこのままか?
 これから先、つばさのいない生活……。
 そこまで考えて、いつの間にかつばさのことを考えていた自分に驚く。
 思い返してみれば、今までも、好きとか嫌いとかの感情は別にして、つばさの事が思考の大半を占めていた。そうなるぐらいに、僕の隣にはいつもつばさがいた。
 桜子じゃないが、離れてからやっとその事実に気が付き、思わず苦笑する。


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