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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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オタクと冷静男と思い出話-5

「……」
「幸一郎さん?」
 しかし、玄関から聞こえてきた戸の閉まる音と、桜子の呼び掛けで我に返る。
「……なあ、遠矢」
「はい、なんでしょうか?」
「……嫌いってのは、僕のことか? ……いや、答えなくていい。僕以外いるわけないもんな。……そっか、つばさに嫌われたのか。は、ははは……」
「あ、あの……」
「そりゃそうだよな。あれだけ冷たく当たって、嫌われないほうがおかしかったんだ」
「……」
「あはは、ひどい冷血人間だな。そうだよ、どうせ血も涙もない畜生だよ!あははははは!! どうせダメ人間なんだ。笑いたいなら好きなだけ笑えばいいさ!」
「こ、幸一郎さん、だいぶ壊れてますね」
「壊れてる? 違う! おかしいのは世の中だ! フラれただけで壊れ……フ、フラ、フラれたぁぁぁあ!」
「十分すぎるほど壊れてますよ……」
「はは、燃えたぜ、燃え尽きたぜ……、真っ白にな……」
「……最後の試合を終えたボクサーですか? できたらいい加減、元に戻ってほしいんですけど……」
「ううっ、逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」
「幸一郎さん……、元気出してください。見てるこっちまで病んできそうですよ……。そのうちまた、きっといい人に巡り合えますから、ね?」
「…………遠矢、おまえ、実はいいやつだったんだな……」
「実は、って……。ひどいですね」
「……ごめん。また冷たい言い方したな。本当にごめん」
「い、いえ、気にしてませんよ?」
「……ありがとな」
「え? あ、いや、その……」
 僕の顔を見て、気のせいか、微かに頬を赤く染める桜子。
「ああ……、なんだか疲れたな……」
「あ、あの、幸一郎さん?」
「どうかしたか?」
「なんだか、今にも死んでしまいそうな感じでしたから……。大丈夫ですか?」
「ああ、死ぬか……。それは考えてもみなかったな、はは」
「それならいいんですけど……。本当に元気出してくださいよ」
 なんだか喋るのにも疲れてきたので、身振りで返事をする。
 しかし、桜子は僕の疲労に気付いてくれなかったらしく、まだ会話を続ける。
「あの……」
「……」
「大宅さんを追い掛けて、謝ればいいんじゃないですか?」
 ……何で身振りじゃ返せないような質問するんだよ。
 仕方なく、面倒ながらも口で説明する。
「怒ってる理由も分からないのに、何について謝ればいいんだ? それが分からないのに追い掛けてもさっきの二の舞だ」
「それは……」
「情けないけど正直な話、僕はこれ以上考えても、理由を考え付く自信はない」
「……」
「しばらくすれば機嫌を直してくれるだろうから、今はそれまで待つのが……」
「……それじゃあダメですよ!」
 突然の大声が、部屋の重い空気を震わす。急な状況の変化に脳がついていけず、続きを言うことも忘れて惚ける僕。
「そんな逃げ腰だと、解決できることもできませんよ! 世の中、まずは何でもやってみないと……!」
「で、本音は?」
「もちろん、些細な事でのすれ違いで、土砂降りの雨のなかで相手の説得に向かうも、うまくいかない」
「……またお得意の妄想話か」
「もうダメかと思うそのとき、飾らない自分の想いの全てををぶつける!
『離れてからようやく気付いた! 俺はおまえのことが……!』
そして、昨日までと違った夕日が、祝福するかのように二人を染めていく……、青春ど真ん中ですわ!」
「いや、今日は雨降ってないし」
 自分で言っておいてなんだが、このツッコミにもツッコミどころが多々ある。
「そんな些細なことは関係ないんです! 雨が降ろうろうと飛行機が墜落しようと、いまさら脚本は変える気はありませんよ!」
「脚本て……人の恋路で遊ぶなよ……」
 言ってて少し恥ずかしいが、いまさらこいつに遠回しな表現は無意味だろう。
「遊んでません。わたくしはなにをするにも真面目ですよ?」
「面倒だから簡潔に言うが……起きながら寝言を言うな」
「あら、ここでどなたか寝てらっしゃるんですか?」
 ……お前のことだっての。
 さっきまでのしおらしさはどこに行ったんだか……。
「見たところ、どなたも寝てませんよ?」
「……はあ」
 ため息を吐くと幸せが逃げていくとよく言うが、もし本当だったら昨日と今日で一生分使いきったな……。


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