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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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オタクと冷静男と思い出話-2

 …やってられない。今日はこんなのばっかりだよ…。
 桜子の視線も痛いから、とりあえず話を逸らそう…。
「…そ、そう言えば、さっきまでどこ行ってたんだ?」
「なんだか唐突な切り換えですね。脈絡もないですし」
「……」
「別になにが言いたいわけじゃないんですけどね」
 …嘘だ。目がやけに生き生きしてるし。
「…ラブラブトークは後にして、ちょっといいかな?」
「……」
「ラブラブだなんて、そんなはっきり…」
 遠慮がちな長谷部に言われ、わざとらしく頬に手を当てる桜子。話がややこしくなるからやめてくれ。
「…で、何かあったんですか」
「ん、桜子くんがどこに行っていたのかと思ってな。それよりも栗花落くん、リアクションはもっと可愛げのあるものを期待していたのだが…」
「部長〜、いっちーにそんな事期待してもダメですよ。それに、そんなの似合わないと思います」
「ん、確かにそんなキャラではないな」
「……」
 言いたい放題だな。遠慮という言葉を知らないのか?
「だが平淡なだけでは人生が退屈だろ? たまには刺激として予想外の行動も欲しいところだな」
「……先輩といると十分刺激的です」
 ついでに言うと、できれば受けたくない、不快な部類に入る刺激だったりする。
 しかし、長谷部は違う意味に取ったようで、見当外れの返事を返してきた。
「……それは、遠回しな告白のつもりかい? 気持ちは嬉しいのだが、そうなると多少の修羅場は避けられないかな……」
「……どうやったらそんな意味にとれるんですか。だいたい修羅場って何ですか」
「何って、そんなの決まってるだろ?」
「……」
「それはだね……」
 わざとらしく一拍間を開け、
「三角関係のもつれからの修羅場は昼ドラの基本! 二人の女性の狭間を揺れ動く美少年の、ドロドロとした大人の愛憎劇!! 斯うご期待! と言う展開だからだよ」
「……」
 昼ドラ……? 少年なのに大人? 誰が何を期待?
 相変わらず理解できないが、ツッコミどころが増量中なことだけはイタイほど伝わってきた。
「いっちー、二股はだめだよ! 男なら、はっきりどっちかに決めなくちゃ!」
 さらに、バ……じゃなくて、つばさもそれに便乗してくる。
「そんなことするわけないだろ。だいたい、遠矢はただの部活の仲間だ」
「あら、何でわたくしなんですか? 部長は『二人の女性』としか言ってませんよ?」
「あ……」
 忘れてた……。確かにどちらだとは言ってなかった。
「うむ、なぜ桜子くんだと思ったのか、とても興味深いな」
「そ、それは……」
「やはり桜子くんに惹かれている自覚があるのかい?」
「違います!」
 実際そうとも考えられるだけに、必死で否定する。
 それに、このままだとつばさは単純だから信じてしまうだろう。それだけはなんとしても避けたい。
「別に、遠矢を意識していたわけじゃないですよ。絶対に」
「やけに力一杯に否定しますね……。なんだか、とても複雑な気分ですわ」
「仕方ないだろ。間違いは正さないと」
 念には念を入れて強調する。すると、その一言を聞いた長谷部は何かを納得したような表情になり、独り言のように呟いた。
「……桜子くんではないとしたら、栗花落くんがどちらを選ぶかで迷っているのは、大宅くんと私ということになるな」
「え……?」
 長谷部の言葉が鼓膜を揺らした瞬間、洗剤を使ったかのように頭の中が一気に真っ白になった。
「え……あ、い、いっちー?」
「まあ、そうだったんですか? ぜひとも詳しくお聞きしたいですね」
 だがそれも一瞬、つばさの珍しく困惑したような声と桜子の興味津々といった感じの声で、すぐに現実に引き戻される。
 それと同時に、頭の隅々まで行き渡る言葉の意味。
「さあ栗花落くん、どうなんだい?」
「…………違う。断じて違う! そんなわけないだろ!!」
 頭が混乱して、敬語を使っていないことにすら気付かず、一気に否定する。
「そうかい? そう言う割には、やけに慌てていたような……」
「う……」
「その慌てぶり、図星なんだろう? 素直に白状してしまえ」
「……」
 ……ぐうの音も出ない。
 助けを求め辺りを見回すが、桜子は間違いなくこの状況を楽しんでいるし、つばさを頼るなんて論外だ。
 頼れるのが自分自身だけの今、こんな時だけムダに冷静な長谷部の思考を恨みつつも、頭を冷やして反論を試みる。


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