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華麗なる逃亡日記
【コメディ その他小説】

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華麗なる逃亡日記 〜逃げちゃダメだ!〜-1

 窓から差し込んだ麗らかな春の日差しが、慈しむように僕の体を照らし暖める。
 外に見える新緑の木々も同様に、煌めく陽光の中、その若葉を微風に揺らしている。
 嗚呼、今はありえないほど爽やかさ爆発中の春の午後!
 で、あるはずの時間なのに……。
「あっがりぃ! また大富豪だ!」
「なにぃ!?」
「ふふ、私もこれで終わり。富豪だな」
「さぁ、大貧民はだ〜れだ?」
 …何が楽しくて教室で、それも放課後に大貧民なんかをしなければいけないのだろう?
 しかもさっきから負けてるし…。
「私としてはまた御幸くんだと思うな〜」
「鈴村もそろそろ負けないものか…。そうでないとつまらん」
 勝者の余裕か、美奈と由紀は好き勝手に自分の予想を語る。
 だが、僕は負ける訳には行かないのだ。背水の陣ってやつ? ただそれは、負けず嫌いだとか、そんな子供じみた理由じゃない。
 純粋に勝負をしてるだけなら負けてもいいんだけど…。
「鈴くん、俺はこれ以上負けたら財布の中身が空に…!! だから俺のためだと思って、潔く散ってくれ!!」
 御幸が引きつった顔で哀願してくる。だがさっきも言ったが、僕も負ける訳にはいかない。
「嫌だよ! 僕だって今月は小遣いがピンチなんだ!」
「俺たち友達だろ!? 美談として語り継いでやるから、一生のお願いだ!!」
「今は思い出より物、友情より現金のほうがいい!」
 …負けられない最大の理由、それは金が賭かっているからだ。
 その賭け金も、始めは小額だったが、(僕以外の)テンションに比例して上昇し、現在は負けたら無一文になってしまうほどに膨らんでしまった。
「こ、この守銭奴! ムッツリ!! 軟弱者!! 見損なったぞ!!」
「なんだよ、見損なうほど僕のこと評価してなかったくせに!」
 …お金の魔力。今ここで一つの友情が音を立て砕け散った。
「鈴くんだけは信じてたのに! この純情を裏切るのか!?」
「いや、気持ち悪いからそうゆう言い方しないでよ…」
「ひどっ! くそ、これでもくらえ!」
 そう言いながら御幸がAを出す。
「な…、まだそんなものを!?」
 まずい。今の手札の中で最強はQだから、僕に打つ手はない。
 すると、僕の顔色が変わったことに気付いたらしい御幸が、余裕の表情を浮かべた。
「おやぁ? 鈴くん、さっきまでの勢いはどうしたんだい?」
「ぐっ……」
「拓巳く〜ん、がんばってね!」
「いいぞ御幸、そのまま畳み掛けろ! 鈴村を勝たせるなよ!」
「さあ、鈴くんの番だよ。パス? パスするのかな?」
 御幸が残り二枚の手札をヒラヒラと振りながら言う。
 ああ、もうどうしようもない……。さようなら、僕のお札達。僕が使ってあげたかったよ……。
 僕はすべてを諦めると、破滅への一言を言うため口を開いた。
「くっ、パ――」
 あと一文字。破滅が僕を手招きしているのが見える。
 しかし、そのとき歴史が動いた。
「んー? おまえら何してんだ?」
 急に教室の前の戸が開くと、担任の水原康雄(三十歳、恋人募集中)が現れた。
 突然の来訪者に、全員動きが止まる。
「お、大貧民か?」
「は、はい」
「そうかそうか。自慢じゃないが先生、トランプには自信あるぞ。はっはっは」
 ……だから何だと言うんだろう?
 仕方ないので、適当に返事をする。
「は、はあ……」
「何だおい、元気がないぞ。……で、賭けてんのか?」
 突然の直球な質問。もし賭け事がバレたら色々と面倒だ。
「は、ははは。な、なにを言ってんですか。純粋にゲームを楽しんでただけですよ。そうだよな、みんな」
「そうです。御幸くんの言うとおりですよ。いやー、大貧民は奥が深いですよねぇ、あははは」
 ……何て言うか、演技ヘタすぎだよ美奈。棒読みだし、これはバレたなぁ……。
「ほう。なるほど、そうだったのか。健全でよろしい!」
「って、あっさり信じてるし! 人としてそんなに単純でいいんですか!?」
 予想外の出来事に思わずツッコミを入れてしまった。


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