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華麗なる逃亡日記
【コメディ その他小説】

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華麗なる逃亡日記 〜逃げちゃダメだ!〜-6

「さて、と。美奈たちが気付かないうちに帰っちゃおっか?」
「え? いいの?」
「うーん、絶対とは言えないけどいいんじゃないかな? まだ遊ぶのに忙しそうだし」
 視線を穂沢さんや先生のほうに向け、
「ほら、先生とじゃれてる。まだしばらくは帰らないよ」
 私もそっちを見て、ふと思ったことを口にした。
「……先生、あの中に放っといてもいいのかな?」
 一瞬の沈黙。
「と、とにかく、先に帰ったぐらいならそんなに怒らないさ。それに、さすがに教師にまで危害は加えないと思うよ。……たぶん」
「うん、たしかにそこまでは……」
 でも、完全にないとは言い切れないのがちょっと怖いかな。
「で、先生はそれでいいとして。凛ちゃんはどうしたい?」
「えっと……」
 先生のことが心配ないなら、もう選択肢は一つだよね。
「……うん、もう帰ろっか」
「よし、決定。あ、ごめん、そこの机の鞄とって」
 すぐに鞄を取って拓巳くんに渡す。
「じゃあ、なるべくこっそり行こう」
 頷いて、すぐに行動に移る。
 穂沢さんたちが先生に注目している内に、バレないように入り口に向かう。たまに穂沢さんたちの方を確認しながら、一歩、また一歩と近づいていく。
 そして、あと少しで教室を出れる位置まで来たとき、
「そこぉ! なに逃げようとしてんだ!」
「うわ、あと少しだったのに! 凛ちゃん、走ろう!」
 返事をする間もなく私の手を引いて全力で走りだす拓巳くん。
 後ろで誰かの声が聞こえるけど、気にしないで走り続ける。
 しばらく走って玄関に近づいたから、手を繋いだまま速度を緩める拓巳くん。
「えっと、ね、ねえ、拓巳くん」
「ん、なに?」
 振り返らずに声だけで返事。
「あ、あのね、手繋いでるとちょっと走りにくいから、放してくれないかな……?」
「え? あ、ああ! ごめん!」
 慌てて手を放す拓巳くん。
 温もりが離れていって、少しだけ、言わなければよかったな、と後悔する。
「あー、えっと、ごめんね」
 まだ振り向かないで謝る拓巳くん。少しだけ見える耳は、薄暗い廊下でも分かるほど真っ赤になっている。
「帰ろっか……」
「うん」
 こっちに顔を向けようとしないけど、私も顔が赤いだろうからちょうどいいかも。
 たまにはこんなのもいいかな、とか思いながら、私は先を歩く拓巳くんの背中を追い掛けていった。


 数分前、教室。
「美奈、鈴村たちが逃げたぞ」
「うん、そーだね」
「……追い掛けないのか?」
「うーん、面倒だからいいよ。どうせ逃げられるだけだし」
「そうか。しかしめずらしい、いつもは鈴村優先なのに。………はっ、そうか!」
 急に何かに気付いたように、由紀は満面の笑みを浮かべながら軽く両手を広げて、
「鈴村よりも私を選んでくれたんだな! さぁ、私の胸に飛び込んできたまえ!」
 美奈はそれを聞いて苦笑する。
 由紀としては苦笑のあとに冷静なツッコミを期待したのだが、予想に反して美奈はそのまま腕の中に飛び込んできた。
「…………え?」
 予想外の出来事に、腕を広げたまま固まる由紀。
 自分と同様に、この光景を見ている御幸も無言だ。
 誰もが押し黙った教室に、時計の秒針の音だけがやけに大きく響き、しかし、動きは無いまま時は流れる。
 だが、しばらくすると意識が状況に追い付き、由紀は現状を把握しようと試みた。
 自分の腕の中にいる美奈を確認し、とりあえず背に手を回し軽く抱き締める。
 それでも美奈は文句は無いらしく、胸に顔をうずめている。泣いてはいないようだが、ちょっとした事でも涙滴に繋がりそうだ。
 その、簡単に壊れそうな細い肩を見て、次の選択肢が二つ、脳裏に閃いた。
 一つ目は、友人として美奈が落ち着くまで胸を貸し、優しく抱き続ける。
 これだと自分が包容力のある大人だということをアピールでき、美奈を抱くことに大義名分もある。
 そして二つ目は、問答無用、この場の勢いで押し倒す!
 こんなチャンス滅多にないし、今ならば大丈夫な気がする。美奈から抱きついてきたのだから、本能に従い、倫理や道徳なんてさよならだ!
 生まれたままの姿で恥じらいの表情を浮かべる美奈……ああ、ああ! 素晴らしい!
 だが問題は、意図に気付かれないように御幸をどうやって追い出かだ。
 いやいや、人目があるのも逆に燃えるかもしれない。むしろ見せ付けてしまえ!


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