華麗なる逃亡日記 〜逃げちゃダメだ!〜-4
「せ、先生……!?」
しかし、突然聞こえてきた声で、はっ、と我に返る。
「あ、凛ちゃん!」
驚いている凛ちゃんが視界に入った途端、急に活性化する僕の都合のいい脳みそ。
いや、でも男なら全員そんな感じだよね、たぶん。……僕だけじゃ、ないよね?
「あ、あの、先生どうしたの?」
「あー、凛ちゃんは知らない方がいいよ、うん。ほんと、こいつらに関わるとロクなことないからね。僕みたいに。はは」
さり気なく凛ちゃんと三人の間に入って、やつらを隔離する。
なんだか、後ろから三人分ぐらいの殺意を感じるけど、きっと気のせいだろう。
愛があれば、怖いものなんて何もない!
……うーん、このセリフ臭いな。ま、いっか。誰が聞いてるわけでもないし。
「でも先生、誰もいないところに話し掛けてるけど……」
「きっと大丈夫だよ。それに、もし治らなかったとしてもあの三人の責任だし」
なんだか、感じる殺気が倍近くに増えた気がするけど、気にせずいこう。たぶん気にしたら負けだ。
「でも……」
それでもまだ、僕の肩ごしに先生を見ながら心配する凛ちゃん。その優しさは、優しさ半分の某風邪薬なんて目じゃないほどの完全さだ。
あの非情な幼なじみたちにも、少しでいいから見習わせたい。
……っと、話が逸れてるし。
「そう言えば、生徒会の仕事はもう終わったの?」
「あ、うん。今日の分はもうおしまい」
「じゃあ、もう帰ろうか。うん、帰ろう帰ろう」
そう言って強引に話を終わらせて、そのまま凛ちゃんを促して廊下にでる。
しかし、廊下まであと一歩のところで僕を捕獲する六本の腕。その途端、背骨に冷水を流し込まれたような感覚がした。
「拓巳くん、帰るのはちょーっと待ってくれるかなぁ?」
「ああ、とても、とーっても大切な話があるんだが」
「は、はは、いや、ほら、もうよい子は帰る時間だし」
「そんな冷たいこと言うなよ。鈴くんの態度しだいではすぐ終わから、な?」
「な、なんのことかなあ? まったく分からないんですけど?」
「じゃあ私が分かりやす〜く、きっちりと教えてあげようか?」
「……遠慮させてもらいます」
「それじゃあ……」
わざわざ振り向かなくても、経験で三人とも歪んだ笑みを浮かべているのが分かる。
うう、後ろを向くのが怖い……。
「あの……」
は、そうだ! 凛ちゃんなら助けてくれるかも!
……プライド? そんなの二の次だよ。
「凛ちゃん、助けべぶふぁ!」
どがっ。
「冬月さん、拓巳くん借りるね」
「え?」
「すぐ終わるから待っててねー」
ああ、いま教室の戸の閉まる音が聞こえたような……。
「さあ、拓巳くん。理解し合おっか?」
「ひっ……!!」
「なあに、今は恐がる必要はないさ。この後嫌というほど味わってもらうんだからな」
「まあ、ちょっと我慢すればすぐ慣れるよ。……こんな風に」
「う、うわあぁぁあぁあぁあ!」
「こんな事とか」
「や、やめ、ぎにゃぁあぁぁあ!」
「いい感じだね」
「ひぁぁあ! こ、これやめてぇぇえ! 目醒める! なんか目醒めちゃうって!」
「はは、まだ先は長いよ? うりゃ!」
「ひでぶっ!」
「なかなかに懐かしい反応だな。だけど……えいっ」
「ぐはっ! も、もうやめ……」
「よーし、とっておきだよ!」
「ひゃ、くすぐった……ぎゃはははは!」
ご、ごめん、も、もう、やめ……。
「そーれ!」
「う、うぎゃあぁぁあぁああ!」
…………。
…………。
僕はこの後もしばらく、筆舌しがたい目にあわされ続けた。
ああ、思い出すと目から汗が……。
「ま、マジで、マジで目醒め……ひゃあああああ!」
……ギリギリ目醒めなかったけど。