華麗なる逃亡日記 〜逃げちゃダメだ!〜-2
「どうした鈴村、一人で興奮して?」
「あ、い、いや、だって……」
「おいおい、変なやつだな……。とにかく、先生だって何も考えずに信じたわけじゃないんだぞ?」
「……聞いてたんじゃないですか」
「誰も聞いてないなんて言ってないぞ。人の話はよく聞け」
「……」
小バカにしたような物言いに、少し腹が立つ。先生のくせに大人げないし。
「とにかくだな、俺が信じたのは、ちゃんとした理由があってのことだ」
「……」
「……おまえら、信じてないだろ?」
だって、すごく嘘っぽい。信じろというのが無茶な話だ。
「……おまえらなぁ、可愛い生徒の言葉を信じない教師がどこにいるんだよ?」
「……」
とても偽善者っぽい物言いに、僕、御幸、由紀の三人は疑いの視線を向ける。
しかし、その中でただ一人、美奈だけは反応が違った。
「わー! ねえねえ、拓巳くん聞いた? 先生も可愛いって言ってくれたよ!」
「え、いや、そういう意味じゃ……」
「やっぱり先生は分かってるね!」
うろたえる先生を無視して一人ではしゃぐ美奈。
「ふふっ、美奈が可愛いってことは、はじめから知ってたさ」
「ホント? 由紀ちゃんありがとー!」
「うむ、私の生涯の中で最高の女性だ」
由紀に頭を撫でられながらそう言われ、美奈はさらに嬉しそうな顔になる。
個人的には、美奈を甘やかさない方がいいような気も……。
「ねえ、拓巳くんはどう思う?」
そんなことを考えていたら、僕にも聞いてきた。僕は甘やかさないと決めたからには、隠さずに本音を言った方がいいと思う。
すなわち、僕的には凛ちゃんの方が可愛いと思うことを!
「僕は……」
よし、言うぞ。これも美奈のためだ!
「……うん、可愛い、と思うよ」
「やっぱり? 拓巳くんもそう思うよね!」
……いや、これは喜んでいる女の子の興を削ぐわけにはいかないし、一般意見を言ったまでで……。決して、美奈に怒られるのが恐かったわけじゃないんだ!
「よーし! 気分もいいし、またみんなで大貧民やろ!」
「うむ、私は大いに賛成だ」
「拓巳くんもやるし、御幸くんは?」
「僕は強制……?」
「そうだな、することもないし」
「よし、御幸くんもだね。先生は?」
「お、俺か?」
「だって、大勢のほうが楽しいし、先生トランプには自信あるんでしょ?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、先生もやりましょうよ」
「……俺も忙しいから少しだけだぞ」
意外と押しに弱い先生。飲み会とか断れないで、妻に怒られるタイプかな。
「よ〜し、じゃあさっき大富豪だった私からね!」
「さあ、鈴村を負かすぞ!」
こうして、先生も交えての大貧民が再開された。
その時ふと気が付いたけど、ほとんど僕の負けが決定していたさっきの分は、うやむやのうちに勢いに流されたらしい。
やった、やったよマイマネー! もう絶対に君を放さない!
「あ、そうだ。さっきの大貧民は拓巳くんだからね」
「ふっふっふ、忘れるほど甘くはないぞ?」
「今月、まだまだ長いけどガンバレよ」
…………前言撤回。今月は極貧生活の運命なんだな……。
ふと目をやった窓の外は、相変わらず爽やかな春の陽光が煌めいていた……。
「はい、僕もこれで上がりです」
「な!?」
「先生、これで何連敗ですか?」
「そ、そんな……。くそっ、もう一回だ! 次こそ!」
……さっきから何回も繰り返されている風景。
実際にやってみたら先生は強くなく、それどころかすべて負けているのだ。それも、圧倒的な弱さで。
「ところで、こんなにやって先生の懐は大丈夫なんですか?」
御幸の質問は、僕も気になっていたことだった。
先生は僕たちが心配したほど賭け事にうるさくなく、むしろ金を賭けないかと持ちかけたほどだった。
おかげで先生公認で賭けているが、その状態でこれだけ負けていると他人事ながら心配になってくる。
「ふはは、バ、バカ言うな。さっきまではわざと負けてやってたんだよ。これから奇跡の大逆転劇で、最期には負けた分を帳消しにする予定だしな」
……この人ダメギャンブラーだよ……。負けた分を最期に取り戻そうとする人なんて、大抵はさらにお金を減らすだけなのに。