悪魔とオタクと冷静男-9
その後、つばさもすぐに回るのをやめ、話題もないので特に何も喋らずに、ただひたすら歩き続けた。
すると突然、少し前方の路地から急に人が飛び出してきた。
顔は伏せられていてよく見えないが、どうやら同い年ぐらいの少年のようだ。
何事かと驚いている僕達をよそに、突然現れたその少年は、現れた時と同じぐらい突然に、右手に抱えていたもの――巨大な花束を差し出た。
さらに呆気にとられる僕達。
少年は少しの間を置くと、よく通る声でこう叫んだ。
「一目見たときからずっと好きでした!付き合って下さい!」
「…………え?」
と、つばさ。
「………………………………はぁ?」
と、僕。
どうやらこの突撃花束少年は、自分の思いを伝えるために現れたらしい。だが、それはよしとする。
いきなり自分の名前も言わずに、一方的に思いを告げたのも、別にどうでもいい。
僕達が二人でいる時に現れた事は、すごく腹が立つし、よくはない。けれど、まあ問題は無い、という事にしておこう。
問題は、信じがたい事に、いや、むしろ信じたくはない事に、少年の持つ花束が、つばさではなく…その、何と言うか、僕に向かって差し出されていること、だったりする。
ようするに、告白されたのはつばさではなく僕、らしい…
つばさは、そんな僕と少年を交互に見ている。何が起こったのかまったく分かっていないようだ。
もちろん、僕は好きな人も…一応だけど…いるし、だいたいそっちの気はない。きっぱりと断ってやるべきだろう。
「…悪いけど、男はちょっと…他を当たってくれないか」
僕の言葉に、バッと顔を上げる少年。すぐに並んでいる僕とつばさに気付くと、
「うわぁぁぁ!!間違えたぁぁぁあ!!」
百キロ先まで余裕で届きそうな程の大絶叫をあげた。
あまりの声量に、耳を塞ぐ僕とつばさ。
少年はそのまま五秒ほど絶叫し続けたが、やがてガックリとスローモーションのような動きで膝をついた。見ると、両肩は悲しみか羞恥か、あるいはその両方のためか、小刻みに震えている。
早い話が、目に見えて落ち込んでいる。
まあ、それもそうだろう。さっきの言葉を考えるに、自分の一途な思いを、間違えて目標の隣にいた男に告げてしまったのだから。しかも、意中の人にその一部始終を見られてしまっているあたりが救いが無い。僕だったら廃人になる。
本人には悪いが、とても笑える。本人がいなければ笑っていただろう。今はさすがに堪えているが。
隣を見るとつばさも笑いたそうな顔をしている。
「くっくっく…あーっはっはっは!」
突然、地獄の底から響いているような笑い声が。もちろん僕でもつばさでもない。
「ふふふ、お笑いだなぁ…人生初の告白を間違えて男にしちまうとは…くっくっく」
…相当なダメージだったみたいだな。ご愁傷さま。
「あのぅ…大丈夫ですか?」
つばさ…今日は本当に優しいな。僕も一応励ましておくか。可哀想すぎる。
「どこの誰だか知らないが、あんまり落ち込むなよ」
はっ、と顔をつばさの方に向ける少年。
「あ、はい、全然大丈夫です!なんて優しいお言葉!」
僕は無視か。やけに立ち直りが早いな。
「はっ!そ、そうだ、あのですね…」
…ん?そういえばこいつ…
「オ…じゃなくてぼ、僕はあなたを」
つばさに告白しに現れたんじゃないか!
「好…」
「おい、ちょっと待てよ!」
「…ああ?なんだよ、お前は?」
…思わず止めてしまった。なんて言い訳する?
だいたい、つばさとは付き合ってるわけじゃないし…でも…
「おい、なんだって言ってんだよ!」
「…お、お前こそ…なんだよ?」
…僕はバカか。何を言ってるんだ…
「おっと、自己紹介がまだでしたね。失礼しました」
「あ…えと…」
そう言ってつばさの手を取る少年。
…………こいつ、なんか羨まし…じゃなくて腹立つ。
「オレの名前は佐藤太郎です。よろしく」
登場が派手だった割には地味で覚え易そうな名前だな。覚える気なんてまったく存在しないけど。
「すごーい!最近は漫画とかでもそんな名前見ないよ」
「そ、そうですか?ははは」
「……」
誉められて(?)照れたのか、顔を赤くする少年。微妙にけなしてた気がするが…。
「あれ?いっちーどうしたの?」
「…おいオタク。お前バカだろ?」
「えぇ!?何で〜?」
「おい、そこの貴様!彼女のことをバカとか言うな!」
「…お前は今すぐ病院に行け」
「ふん、オレはどこも悪くなんか…」
「頭が悪い」
再び顔を紅潮させる少年。ただ、今度のは怒りによってだが。