悪魔とオタクと冷静男-7
「…何をしろと？」
「話が早くて助かりますわ。うーんと、そうですねぇ…」
「……」
顎に指を当て考え込む桜子。すると、何か考え付いたようだ。
「そうですわ！」
「……」
目を輝かせている桜子。それだけでこれから先の学校生活が一瞬にして真っ暗になった気がした。
「大宅さんに愛の告白をしてください！」
「……………………………………は？」
「ですから、大宅さんに…」
「いや、待て。待ってくれ」
考え込む僕。
僕がつばさに告白？何でそんなこと確かにつばさを可愛いと思ったけどあいつだしでも言わないと遠矢にばらされるそれは辛いつばさと僕が付き合うって好きかどうかも分からない悪くはないかもしれないけど落ち着け落ち着けなにか起死回生の手段があるはずだヒーローはピンチに強い子供騙し…
結論。
「…子供騙しのヒーローか…!?」
「…はい？」
「あ…その…」
何が起きたかまったく分かっていない、といった感じの桜子。
…恋は本当に人を狂わせる。そりゃーもうヤバいぐらいに。
「幸一郎さん…」
「…………何だ？」
「完全にキャラが変わってますね」
「――っ！」
お前のせいだよ、という言葉が喉まで出かかったが、気力で我慢した。状況は明らかに不利だ。文句なんて言おうものなら…
「それで、告白してくださいますよね？」
「…それは…」
「何ならわたくしが伝えましょうか？」
「…それは、勘弁してくれ」
「ならご自分で…」
「ちょっと待ってくれよ。大体何でこんなことを…」
「あら、大宅さんに青春物語を聞かれたくないから…」
「そうじゃない」
「なら、一体何のことですか？」
「…何で遠矢は僕に告白させようとしてるんだ？そんな事させても利益ないだろ？」
「いいえ。ちゃんとありますわ」
「あるのか…」
「普段はクールな美少年が、初めて気付いた恋心を照れながらも相手に伝える」
「……」
「その時、その相手だけに見せる、頬を染めながら浮かべる特別な表情…ああ、美しいですわっ！」
…ぶっ飛んでる。
全国の常識人の皆さん。普通って、何ですか？こんな僕でも…いつかは、手に入れることができるのでしょうか…？
軽く現実逃避中な僕と、恍惚の表情を浮かべる桜子。傍から見たら、かなり異様な二人組だろう。
「とまぁ、そんな訳です。ですから…」
もう現実に戻ってきた桜子。個人的には、あのまま戻ってこなくてよかったのに…
「お願いします」
「……」
「軽く『好きです』とか『付き合ってください』って言うだけですから。ね？」
「軽くって…おい」
「ちなみに、断ったらこのテープをばらまきますよ」
てーぷ？テープっておい…まさか…いや、そんなわけない。きっと冗談、だよな？
カチッ。
「『ああそうだよ！確かに二人だけの時間過ごしてたさ！』」
「……」
いつの間に…。
「『その時に確かに可愛いと思ったよ！しかも【なんか意』」
「くっ…！分かったからやめてくれ！」
意外と素直にテープを止める桜子。
「さあ、これがばらまかれたら、大宅さん以外にも聞かれちゃいますよ？」
「……一週間くれ」
「いいですよ。その代わりちゃんとやって下さいね？」
「善処するよ…」
「成功の暁には、このテープを差し上げますわね」
「……そりゃどーも」
ははは、あと一週間の命か…短い人生だったな…
「今日はお二人の邪魔にならないように、先に帰らせていただきます」
「……」
「それでは、今日はお二人で頑張ってくださいね？」
……って何をだ？
言うが早いか、すでに靴を履き代えて玄関を出ている桜子。ものすごい早業だ。もう二度と戻って来るな。
一人残された僕は、つばさが来るまで、真剣に一週間で悔いを残さない方法を考え続けていた。
その時聞こえてきた部活の連中の声は、やけに虚しく響き渡った気がした……