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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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悪魔とオタクと冷静男-5

「大変だな」
「…ええ。いいかげん慣れましたけど」
「そうだろうな。その気持ち分かるよ」
 そう言って苦笑を浮かべながらどこかを見つめる。視線の向きから、二人の方を見ているのだろう。
「…先輩も、結構苦労してそうですね」
「はは…去年は三年と一年だけで、二年がいなかったんだよ」
「……」
「だから三年が辞めたあと、あいつの相手は必然的に俺だろ?」
「…そうですね」
「あのテンションについていくにはかなり苦労したよ」
「…僕なら絶対ついていけない自信ありますよ」
「俺も最初は本当にそう思ったけど、人間てのは意外と慣れる生き物だな」
「そうですね…」
「慣れてくれば、結構楽しいしな」
 …突然、何を言いだしたんだろうか?楽しい?…まぁ、他のやつといるよりは…
「あいつの相手をするのは疲れるけど、俺は結構楽しい」
「僕は…別に…」
「そうか?大宅とじゃれてるとき、楽しそうに見えたけどな。猟犬と兎みたいに」
「……」
 本当にそう見えたとしたら、楽しそうには見えないと思う。
 唯一の常識人かと思ったが、あっさりと予想は裏切られた。
「まぁ、これからもお互い頑張ろうや」
「……」
 そう言って五十嵐先輩は笑ったが、僕はこれからのことを考えると暗鬱な気分が沸き上がり、とても笑うどころではなかった。
「…ん?栗花落くん、やけに悲愴感が漂っているぞ」
「お悩みなら、わたくしでよろしければご相談に乗りますわ」
「いっちー、いつも以上に暗いよー」
「ふむ。私が見たところ、ズバリ恋の悩みだな!」
「まあ、そんなにもわたくしの事を…」
「え?いっちー遠矢さんのこと好きなの?」
 不安と疲れ倍増。つばさ一人の相手でも疲れるのに。
 …それより、こいつら本当に文学部なのだろうか。部活として成り立ってない…
「好きな人も気になる人もいません。部活しないなら帰ります」
「…えらく冷めてるな栗花落くん。まさか怒ったか?」
「もとからこんな性格です」
「ふむ、つまり戦隊物の青ってことだな。普段は冷静だが、以外と熱く仲間思い…」
「帰ります」
「ならわたくしもご一緒しますわ」
「あれ?いっちー、もう帰っちゃうの?やる気ないなぁ」
 …ウザイ。
「なら今日の部活は終わりにするか」
 あれが部活だったのか。部長のくせに適当だな。
「帰ってもいいぞ、五十嵐…って、もう帰ったか」
 さっきまで五十嵐先輩がいた方を見ると、確かにいなかった。
 楽しいんじゃなかったのか?
 とにかく、部活も終わったらしいし、さっさと帰ろう。
「あっ、いっちー待ってよー」
「何だよ」
「教室に鞄おいてきちゃった」
「なら取りに行けばいいだろ」
「いっちーも来てくれるよね?」
「なんで僕が」
「だって取ってくる間にいっちー帰っちゃうじゃん」
「残ってもする事ないからな」
「だから一緒に来ないとダメなの!」
「…どうしてそんな結論に至るんだ?」
「いっちー、帰るときいつも一人だよね」
 質問の答えになっていない。いつものことだが。
「それで?」
「なんとなく寂しそうだから、一緒に帰ってあげようかなー、なんて…」
「別に寂しくない」
 しかし、こいつが他人のことを考えるなんて珍しい。明日はたぶん雨だな。
「あっ、でも嫌なら別にいいんだ。無理にとは言わないし…」
 しかも何時に無く謙虚。雨じゃなくて雪だろうか?
「…僕は行かない」
「はは、やっぱり嫌、だよね…?」
 僕はつばさの声を無視して、教室から出ながら言う。
「…はやく来いよ」
「え…?」
「帰りたい。玄関で待っててやるからさっさとしろ」
「あ…うん!」
 途端に明るい表情になると、小走りで僕の隣に並んだ。
「ねえ、いっちー」
「何だよ」
「ありがと」
「…僕は早く家に帰りたいだけだ」
「うん。でも、ありがとだよ」
 いつものアホみたいな顔とは違う、柔らかい笑顔を浮かべながら言う。
 …なんだ、つばさも普通に笑えば――
 …って!僕はなにを考えてるんだ!?文学部の影響だろうか…?


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