悪魔とオタクと冷静男-3
文学部の部室は、特別棟の使っていない教室らしい。部室に着いて中に入ると、部員らしき人物が女子二人、男子一人の計三人で雑談をしていた。
「あぁ、大宅くん、やっと来たか」
こちらに気付いた眼鏡の女子が雑談から抜けて言った。内履きの線の色を見ると、二年生のようだ。
「すいませ〜ん。急いだんですけど…」
「まぁ、次は遅刻しないようにな」
「はぁ〜い!」
アホが気の抜けた返事をする。そのやり取りを見ていると、眼鏡の女子と目が合った。こちらを見て、目を輝かす。
「大宅くん、顔はいいけど無愛想で冷淡そうなその少年は?」
「入部希望者です」
「なに、本当か!?」
入部と聞いて、雑談をしていた二人もこちらに注目する。
結果として部屋中の人間の視線を集めてしまい、仕方なく挨拶をする。
「栗花落です…」
「いやー、文学部にようこそ!君を歓迎するよ!」
「はあ…」
眼鏡が手を握ってぶんぶんと振る。やけにハイテンションだ。
「おっと、自己紹介がまだだったね。私は部長の長谷部。二年だ。よろしくな」
眼鏡の女子が笑顔で言う。
「で、あっちのでかいのは五十嵐。こいつも二年だ」
大柄な少年が穏やかそうな笑顔になる。そのせいか、あまり威圧感は感じない。
「わたくしは一年の遠矢桜子と申します。ふふっ、可愛いお顔」
いつの間にか横に立っていた残りの少女が言った。大きな目と長い黒髪、白い肌。お嬢様風の少女だ。妙に近づいているのは、たぶん気のせいだろう。
「まあ、立ち話もなんだからそこら辺に適当に座ってくれ」
長谷部先輩に言われて近くにあったパイプ椅子に座る。すると、なぜか寄り添うように右隣に座る桜子。
落ち着いた処で、改めて部室を見回す。
広さは普通教室と同じで、後ろには中身の少ない本棚。真ん中で長机がロの字を作っており、コンセントの近くには、電気ポットとテレビと、なぜか掃除機が。
他にも、用途のよく分からない物体が散らばっている。
「さて。今日、栗花落くんの入部によって部員が五人に増えた」
僕の正面、黒板の前に座った長谷部先輩が話しはじめたので、部屋の観察を止めて、そちらを見る。
「あ、はいは〜い!私のおかげで〜す」
つばさが手を挙げて得意そうに言う。
「うむ。お手柄だな大宅くん」
「捕獲するのに苦労しましたよー」
「ははは、二階級特進ものだな」
びしっ、と親指を立てながら爽やかな笑顔を浮かべる長谷部先輩と、平らな胸を偉そうに張るつばさ。
ツッコミ所が満載なのに、普通にしている面々。やはり類は友を呼ぶらしい。
「…話がずれてしまったな。ともかく、部員がめでたく五人に達したわけで」
さっきも聞いた。
「よって、学校側が指定した規定人数に達したので」
何の規定だ?
「今ここに、我が文学部も部費争奪戦への参加を表明する!」
…帰ってもいいだろうか。
「むっ、栗花落くん、たくさん疑問がありそうだね」
「…別に」
「よし説明しよう!何が知りたい?」
無視か。慣れてるから構わないけど。
「特に無い」
「参加規定はな、出場可能な部員が…」
勝手に話し始める長谷部(呼び捨てでいいだろ…)。だが、それを止める声が。
「部長〜。ちょっといいですか?」
「ふむ、なんだね?大宅くん」
「部費争奪戦ってなんですか?」
「なんですかって…知らないのかね?」
「はい。全然」
「栗花落くんは?」
知らないので、首を横に振って答える。
「桜子くんは…?」
ふと隣を見ると、長谷部を無視してこちらを見ていた桜子と目が合う。
「いやですわ、幸一郎さんったら。わたくしまだ心の準備が…」
ぽっと頬を赤くしながら言う。風邪でも引いたのか?
「…構わないほうがよさそうだな…」
長谷部が少し疲れたように言う。部長ってのは大変そうだな。
「で、先輩。結局何なんですか?」
「あぁ、昔の教師達が予算の割り当てを考えるのを面倒がってな。その解決策として考えだされた行事だ」
「……」
「部活同士が色々な競技で競っていき、その順位ごとに部費が与えられるシステムでな。ただ、苦情が多かったので一昨年で終わったはずだがな」
「なら何でまた?」
「なんでも、壊れた学校の備品の修理費が増えて、部費の割り振りが面倒になったから復活させたとか…」
職務怠慢すぎではないのか。それぐらいちゃんと考えろ。