悪魔とオタクと冷静男-2
そう言って帰ろうとすると、つばさに制服を掴まれた。
「何言ってんの!いっちーは我が文学部の期待の星でしょ!」
「勝手に期待されても困る」
「もう!そんなんだから文芸部に負けちゃうのよ!いっちーも部員として頑張ってよ」
この高校には文芸部と文学部がある。前者は小説や詩の製作、後者は書評の類が主な活動内容だ。
だが文芸部のほうが部員が多いので、文学部が勝手にライバル視しているらしい。それはいいのだが…
「文学部に入った覚えなんてない」
「あっ、そっか。まだ言ってなかったね」
「……」
嫌な予感がする。それもかなりの。
「いっちーのこと、文学部に入部させといたから」
「……」
嫌な予感的中。いつの間にか、勝手に入れられたようだ。
「さぁ、部室へれっつごぉ〜!」
「分かったから引っ張るな」
「え!?」
驚いた顔で急にこちらを見るつばさ。
「どうした?」
「あ、あのいっちーが素直で無抵抗だ!具合でも悪いの!?」
「…退部しても、また後で勝手に入部させられるんだろ?」
「うん。そうするつもりだよ」
「……」
「てゆーか、退部なんて先輩達が許さないと思うし」
「…とにかく、足掻くだけ無駄なら従うだけだ」
「それだけ?」
「は?」
「他になんか理由はないの?」
つばさが何かを期待するような目で僕を見てくる。
「…他にどんな理由がある?」
「なぁーんだ…」
不満さ爆発、といった感じだ。いつもの事だが、ほっとくと更に不機嫌になって手に負えないので、一応理由を聞く。
「不満そうだな」
「当然!やっといっちーが社会復帰したかと思ったのに!」
「……」
「世の中に全然興味を持てなくて、他人との関わりを持ちたがらないし」
「……」
「ひきこもりで冷血野郎のいっちーが急に素直になったと思ったらこれだよ…」
「……」
「はぁ、やっと私の努力が実を結んだと思ったのになぁ〜」
ひどい言い様だが、半分は事実だ。小学三年の時に引っ越してきた僕は、他人が嫌いでクラスにも馴染めなかった。ひきこもってはいなかったが。
その時、なんとか溶け込めたのは、つばさのおかげと言えなくもない。
そのことについてはつばさには少し(本当に少しだが)感謝していた。
「…やけに偉そうな言い方だな」
「だって、いっちーのためを思ってあんなに頑張ったんだもん。当然じゃん」
していた…昔は。
「……」
「あっ、もうこんな時間だ!」
「……」
「早く行こ!遅れたらいっちーの長話のせいだからね」
…今は、これにどうやって感謝しろと?
考え続けても答えは出ないので、とりあえずは今言える事を言っとく事にした。
「一人で歩ける。髪を引っ張るな」