夜明けのシンデレラ(♂)-5
「…しっかしさぁ、あんたもつくづく恋愛運のない女だね、桜子」
「うるさいなぁ…比呂美だっておんなじようなもんじゃん」
まだ、身体の中には智哉の熱さが残っている…ような気がする火曜日の昼。
会社の屋上の隅にあるベンチは、私と、同期入社で親友の比呂美の定位置だ。
短大を卒業後、この建築会社で事務職として働く私たち二人の付き合いは、かれこれ十年。
よって、十年分のオトコ遍歴ってやつも、お互いに知り尽くしている。
…敵には回したくねえな。
「それで?いつまであんたは『待つオンナ』を続けるつもりなわけ?…って言うか、そもそもシンデレラはこの先をどうするつもりなのかねぇ」
「うん…。智哉は『好きだ、ずっと一緒にいたい』って言ってくれてるけど…」
「うわっ!それ、木曜22時のドロドロ不倫ドラマにありそうなセリフ…」
まるで、妖怪でも見たかのような顔をしながら比呂美がため息をついた。
…私だって、好きで不倫になったわけじゃない。
ただ――…。
ベロンベロンに泥酔した私と、それを介抱してくれた通りすがりのお兄さんという初秋の出逢いから、私たちが親しくなるまでにさほど時間は掛からなかった。
お互いに都合がいいという金曜日の夜、酔っ払いを介抱してくれたお礼を兼ねて一緒にご飯を食べに行くことから始まって、三ヶ月後のクリスマスの朝は、私の部屋のベッドで抱き合って迎えた。
いろんな話をして、たくさん笑った。
智哉とは、好きな食べ物や楽しいと思えることが一緒で、空気も身体も、なんだかピタリと重なり合う気がして。
あぁ、辛い失恋をした後、こうして智哉の隣にいることが私の運命だったんだ…なんて、柄にもなく神様に感謝してしまうくらい、私は智哉に夢中になった。
ただ、ひとつだけ不思議なことがあった。
毎朝、まだ夜が明ける前の早朝に、彼は必ず家に帰るのだ。
もちろん理由を訪ねたけれど、返ってきた答えは『仕事の都合』だった。
なんでも、インストラクターのような仕事をしているそうで、まだ下っ端だから準備やら何やらで大変なのだという。
…その時は、大して疑問にも思わなかった。
自分は、幸せな恋をしていると信じて、疑いもしなかった。
事態が急展開をしたのは、桜も散った4月の終わり頃のこと。
デートの際、智哉が『変装』をするようになった。
最初は、ダテ眼鏡をかけるくらいだった程度が、やがて帽子をかぶりマスクをし…今では、外に出ることさえも好まなくなってしまった。
賑やかな場所よりも、暖かい公園や静かな広場に行きたがる智哉。
二人で、いろんな公園や広場を探してのんびりする時間が大好きだったのに…。
その頃から、私は智哉との交際に疑問を持ち始めたのだ。
浮かんでは消え、考えては否定する『もしかして』の悪い予感。