夜明けのシンデレラ(♂)-4
「う〜ん…。そんな彼氏と別れたことは、正解だったと思います。幸せになんてなれなかったと思うから。ただ…」
「――ただ?」
やっぱり、貯金全額使い果たしたのはやりすぎ?
思わず、次の言葉を探してるらしい様子の智哉に詰め寄ってしまう。
「いや、そうじゃなくて。…桜子さん、泣いてないでしょ?」
「――え…?」
(泣いて、ない?)
心臓が、悲鳴をあげた気がした。
「…いやぁ、こんな馬鹿げた話だもん。泣く気も失せたよ」
ケラケラと笑いながら、私は智哉の問い掛けを否定する。
だって、泣けないよ。
一方的に、あまりにも残酷に終わりを告げられた恋。
自分が惨めで、情けなくって悔しくて。
それでも、前に進むためには、泣くわけにいかなかった。
――それなのに。
「…桜子さん、前に進んだじゃないですか。マンション買って家具買って、自分をリセットした。だからもう、泣いてもいいんじゃないのかなぁ」
――突然に、涙が零れ落ちた。
それは、自分でも予測できなかった程の不意打ちだった。
「…なんで、人が一番触れてほしくなかったとこ、ピンポイントで突くかなぁ」
誰にも気付いてほしくなかったけれど、誰かにわかってほしかった、意地っ張りな私のプライド。
「大丈夫。桜子さん、カッコいいから。次は、きっと幸せな恋ができるよ」
耳に届く、智哉の声。
溢れだしたら止まらなくなったけれど、それでも、心の中の醜い感情全てを洗い流してくれるかのような涙を、私は、なんだか少しだけいい気分で零し続けていた。
そうやって、私たち二人は始まったんだったね。
「――ふぅ。寒くなってきたなぁ」
窓の向こうは、まだ夜明け前の薄暗い街並み。
朝日が昇る前に帰らなくちゃいけない私のシンデレラは、そろそろ無事にお城に着いた頃かしら?
(ベッドで眠る奥さんに、ただいまのキスするのかな…)
あ、地味にヘコんだ。
でも、考えてたってしょうがない。
この関係を、恋を、選んだのは私だ。
――さて。
愛しのシンデレラには、金曜日まで会えません。
頑張れ、私!!