夜明けのシンデレラ(♂)-23
「そうだな。智哉、結婚式は来月あたりに…」
「早いよっ!!」
お座敷中が、温かな笑いに包まれる。
「ねぇ、桜子さん。私が『梅』で桜子さんが『桜』だから、子どもが生まれたら『桃』ちゃんがいいわぁ」
「梅子さん…」
「男の子だったら、どうするんすか?」
「んまっ!そうね、央太さん。男の子だったら『桃太郎』になっちゃうわね」
…そ、それはイヤーッ!
(子ども、かぁ…)
顔を上げたら、向かいに座る智哉と目があった。
見つめ合ったら、お互い、自然に笑顔が零れる。
…嬉しい。
私、この先を夢見てもいいんだ。
――キィ…
月曜日、午前4時30分。
マンションの玄関ドアが、静かに開く。
「と〜もや〜…」
「――うわっ!?ね、寝てていいって言ったじゃん」
「起こしてって言ったじゃん!」
昨日、あれから全ての予定をキャンセルした智哉は、Rホテルからそのまま一緒に、私の部屋へと帰ってきた。
夜は、静かに抱き合って眠りについた。
諦めようとして、諦めきれなかった温もりを噛みしめたかったから。
「俺の都合なんだし…」
「…私、6時になったら『みんなのゲートボール』観るよ」
「!!」
微妙な表情の智哉に吹き出しながら、行ってらっしゃいのキスをひとつ。
やがて、バイクのエンジン音が、まだ薄暗い街の中へと消えていった。
でも。
もう、夜明けのシンデレラボーイはどこにもいない。
『ただいま』の声とともに、あの人はここへ帰ってくるのだから。
巡り逢った、奇跡がある。
繋げてきた、過去がある。
そして――…。
続いていく、未来がある。
私は、恋をしている。
たぶん――いえいえ、絶対に、これが『最後の恋』である。
(完)