夜明けのシンデレラ(♂)-2
――キィ…バタン
目を覚ましたのは、いつもと同じ午前4時30分。
玄関の扉が静かに閉まって、私は、まだ温もりの残る隣の空間に一人淋しく手を伸ばす。
(起こしてって言ってるのに…)
「俺の都合なんだから、寝てていいよ」だなんて。
女心をわかってない。
目が覚めて、カラッポの隣を見つめるほうがどんなにか辛いというのに。
たとえ「行ってらっしゃい」を言えない関係だとしても、玄関先でキスしてくれる、それだけで束の間の幸せなのに。
「智哉の…バカヤロー」
悔しいから、窓の外は見ない。
すごく見送りたいけど、見ない。
布団に顔を伏せるのと同時に、バイクのエンジン音が耳に届いた。
――出逢いは、突然の出来事だった。
一年と少し前、ちょうど季節は夏から秋へと移り変わる頃、私は、五年間付き合った彼氏に振られた。
迷いなく、間違いなく結婚するつもりで、働き蟻のごとく健気に結婚資金を貯めていた私を後目に、彼は、取引先の社長令嬢と婚約をした。
なんてアホらしい結末。
泣くことも忘れるくらいの衝撃的な展開に、とりあえず私は、彼との結婚の為に貯めていたお金を全て使い果たすことにした。
目標の金額にはまだ届いていなかったけれど、銀行で全額を引き出したら、割と小綺麗な中古のマンションが一括購入で手に入り、勢いづいて家財道具も一新。
その間、わずか一週間。
凄まじいハイテンションで、まるで、自分自身をリセットするかのように時間を過ごして。
そして、あっという間に迎えた七日目の夜。
祭りのクライマックスは、財布の中に残った三万円を握りしめ、彼と一緒によく行ったバーで一人きり、一晩中飲み明かすこと――だった。
浴びるほどの酒を飲んで、もちろん、前後不覚の強烈な酔っ払い状態。
おまけに、誰彼ともなく絡みまくる最悪なヘベレケ女となり果てて。
「…あのぉ、大丈夫ですか〜?」
頬をたたく冷たい手。
耳に届く、遠慮がちな声。
気がつけば、初秋の風が吹き抜ける公園のベンチで、私は一人、無様な姿で行き倒れていた。
ガンガンと痛む頭に、これが二日酔いなるものか…なんて妙に納得しながら目を開ければ、そこには、眩しい朝日を背中に背負って、これまた眩しいくらいのイケメンくんが、心配そうに私をのぞき込んでいた。
そんな、出逢い。