夜明けのシンデレラ(♂)-17
「…でも、私ちゃんと央太のお見合いだってカレンダーに書いたよ?」
「いや、『お見合い』としか書いてなかったよ。だから俺、てっきり…」
「おっかしいなぁ…」
ちゃんと書いたと思うんだけど…。
「――あっ!!」
「な、何よ央太?」
「わかった!…姉ちゃん、またいつもの癖でカレンダー書いただろ?」
(…いつもの、癖?)
「智哉さん、ごめんね。…あの、俺たちのお袋ってけっこうずぼらな人でさ」
「…はぁ」
「ちょ、ちょっとあんた何言い出すのよ、央太!」
…確かに、うちの母親はずぼらで図太く寸胴だけど。
でも、かわいい人なんだからね!
「で、昔から俺たちのいろんな予定をカレンダーに書き込むときも、名前の頭文字しか書かないのよ」
「…頭文字?」
怪訝そうに眉間にしわを寄せる智哉。
未だ、弟が何を言いたいのかわからない私。
「うん。…例えば姉ちゃんの試験なら『さ・テスト』とか、俺の試合なら『お・試合』とかね」
「「――――あっ!」」
声を上げたのは、二人ほぼ同時だった。
「…そう。姉ちゃん、カレンダーに『お・見合い』って書いただろ?」
「…はい」
ええ、その通りの名推理です弟よ。
――だから、智哉は私のお見合いと間違ったんだ…。
「そういうこと。『お・見合い』なのか『お見合い』なのかなんて、一見してわかるわけねぇだろ!…すみませんね智哉さん、こんなアホな姉で」
「…ごめん、智哉…」
恐る恐る、左隣に座る智哉へ視線を送る。
「――プッ」
「!?」
「アッハハハハ…」
智哉くん、涙まで零して大爆笑。
「あ、あの…智哉?」
「あ〜よかった!桜子さんの見合いじゃなかった!」
ため息とともに、張りつめていた智哉の全身から力が抜けるのがわかった。
「俺、このまま本当に終わっちゃうんじゃないか…って、すごい怖かった。特に最近、桜子さんに淋しい思いさせてるのもわかっていたから…」
(…智哉…)
一緒に出かけられなくなったこと。
日曜日も帰らなきゃならなくなったこと。
それに対して、私が言葉にしてはいけない淋しさを抱えていたこと。
…全部、あなたはわかってくれてたんだね。