夜明けのシンデレラ(♂)-16
「智哉…私…」
「――すみませんっ!」
(…………へっ!?)
…思いっきり乙女な気分で彼の胸に飛び込んでいく準備万端…だったんですけど…。
直角90度に腰を折り、深々と頭を下げた智哉の向く先は――。
「お、俺っすかっ!?」
突然の状況が飲み込めない上、その矛先が自分に向けられ慌てふためく央太――だった。
「と、智哉…?」
「今日、あなたと桜子さんがお見合いすると知っていて、俺はここに来ました」
ゆっくりと顔を上げ、央太を見据える智哉。
…あれ?
何か、言ってることがちょっと…。
「自分勝手な言い分だと承知の上で、お願いがあります」
「あ、あの…智哉?」
「――桜子さんは、俺の大切な恋人です!このお見合い、どうか白紙にしてください!!」
ラウンジ中に、張りのある智哉の声が響き渡った。
その瞬間、ケーキセットを運んでいる最中の店員さんやら、パソコンを開いて何やら難しい顔をしていた会社員やら、全ての人目が智哉に集中する。
数秒後。
「――あ、あの…」
おずおずと、申し訳なさそうな央太の声がラウンジに響いた。
「俺、高杉桜子の弟の央太で、今日の見合いの張本人です。何か、姉がいつもお世話になってる…みたいっすよね、ハハッ」
央太…最後の乾いた笑いがむなしい。
「…えっ…弟さん?――えぇぇっ!?」
「…そうなの、智哉。…ごめんね、何か勘違いさせちゃった…みたいだよね?」
…しばしの沈黙の後、耳まで真っっ赤になった智哉の姿を…私は、初めて目にしたのであった。
「…いや、ホント勘違いしてしまって…すみません」
追加注文で頼んだアイスティーを目の前に、智哉が三度目のお詫びを口にする。
「あ、もう大丈夫っす。そんな気にしないでくださいよ」
それに対する央太の返答も、たいして中身が変わらないまま三回目。
そうして、自分の弟と好きな人が同じテーブルで向かい合ってるこの光景を、ものすごく不思議な気分で眺めている私。
あれから、この寒さ厳しい12月に思わずアイスティーを注文しちゃうくらい混乱した智哉だったけれど、改めて『央太の見合い』であることを説明し、ようやくの落ち着きを取り戻していた。
央太は、いないと思っていた『姉の彼氏』の突然の登場にも、逆に何だか楽しそうにしてる。
そう言えば、歳も智哉がひとつ上で同世代だ。