夜明けのシンデレラ(♂)-14
「いやいや…大事なところでやっちまっただねぇ」
「うるせぇなっ!何度も言うなよ!」
晴天に恵まれた日曜日、午後4時。
Rホテル2階のラウンジにて、冷めていくコーヒーにも手を付けず頭を抱える――我が弟。
予定していたお見合いは滞りなく定刻に幕を開け、その席に凛と着座したのは、これまた目を見張るような美しいお嬢さんだった。
気張って一張羅を着込んだ央太が、その顔を真っ赤にして俯く様は、姉ながらこいつの純粋さが可愛らしかったわ。
その後、央太の上司だという吉崎様のスムーズな進行のかいもあって、場は和やかな雰囲気のまま進んでいったのだけど…。
『――央太さん、ご趣味は…?』
『ご、ご趣味は…シュ、シュノーボードでありんすっ!!』
……沈黙。
あ〜、今思い出しても腹が痛い。
弟よ。
得意なスノーボードのことを、格好良く伝えたかったんだよね。
うん、姉さんはその気持ちよくわかるよ。
…でもさ。
気合い入れすぎで噛んじゃってるし、『……でありんす』って、花魁かお前はっ!?
「――姉ちゃん、いつまで笑ってんだよっ!」
あ、バレた。
「ごめーん。でも、まぁ人生って何があるかわかんないよね。あの一言で彼女、あんたのこと気に入ってくれたって言うんだからさ」
「…ホントかなぁ。ちゃんと連絡くれるかなぁ」
「う〜ん…くれないかもしれないね」
「姉ちゃんっ!!」
25歳を過ぎても、こいつはからかうと可愛い。
…でも、姉として相手のお嬢さんには申し分ないし、気に入ってくれてたのは事実だから、私は全力で応援するよ。
父さん母さんだって、高杉家跡取りの央太が家庭を持って落ち着いてくれれば、どんなに安心するだろう。
…三十路を迎えた長女は、不甲斐ないままだしね…。
「まぁ、俺は俺なりに頑張るけど…そっちは、どうなんだよ?」
「え?」
「姉ちゃんは、オトコいるのかって言ってんの!なんか、去年から突然一人暮らし始めるし…。口には出さないけど、親父もお袋も心配してるぜ」
(…そう、だよね…)
脳裏に、この前の智哉の後ろ姿が浮かぶ。
いつもとは違う、痛みと切なさが混ざり合うようなセックスの後、黙って部屋を出ていった智哉。
それ以降、彼からの連絡は――ない。