非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-80
時は遡り、遊佐間家。
居間で『お楽しみ中』の悠樹と美咲を残し、琴葉、燐、アブリス、アンファングの四人(?)は琴葉の自室に引っ込んでいた。
「それで…KY-06の事…だったわね」
「はい…お姉様の最高傑作だとお聞きしましたが…」
「まあ、正しくは、『最高傑作にしようと思って造ったのだけれど、途中で飽きてしまって中途半端に放置してしまった代物』かしら、ね」
それは最高傑作とは呼べないどころか、完成すらしていないのでは…? と、燐は思ったが、琴葉の手前、口に出せる筈も無かった。
「今は此処には無いから、遠隔起動させて呼び出したけれど」
「呼び出す…? 六号機は要所殲滅用の機体だと仰っておりませんでしたか…? ここに、呼び出す事の出来る大きさなのですか…?」
要所殲滅用という位だから、ゴテゴテと砲門の付いた全長ウン十メートルの機体を想像していた燐は、齟齬を感じて問い返した。
「ええ、ヘクセンと殆ど同じサイズですもの」
「そ、それは…とても…わたくしには、想像し難いのですが…」
基本的に取り回し易い小銃よりは、一撃必殺であらゆる物を破壊する凄い大砲の方が好みである燐は、『人と同じサイズ』と『要所殲滅』が両立した存在という物を、パッと思い浮かべる事が出来なかった。
「『要所殲滅用』なんて大層な事を言ってはみたけれど、所詮は中途半端な代物だから、殲滅兵器に関しては全く手を付けていないのよね…自己防衛機構の集大成としてはそれなりだけれど」
「そ、そうなのですか…」
「KY-06と言うと…兄様と私と同時期に造られていた、『フェグライン』ちゃんの事ですか?」
ようやく、ショック状態から持ち直したアブリスが、今話題に上っているのが己の『妹』であるという事に気が付き、琴葉に問うてみた。
「そうよ」
「Vo:glein…『鳥』…ですか…素敵なお名前ですね」
琴葉の趣味に乗じてドイツ語にも手を出していた燐は、機体名の意味をさらりと読み取った。
「ええ、何となく、そんな感じに仕上がったものだから適当に付けてみたのだけれど…気に入ってもらえたのなら嬉しいわね」
それでは、もしかして自分達の名前も適当に付けられたのだろうか…と、アンファングとアブリスは、レーザー通信で複雑な胸の内を通じ合わせた。
「鳥の様…という事は、羽を生やしていらっしゃるのでしょうか?」
「フフ…それに関しては『百聞は一見に如かず』とも『見てからのお楽しみ』とも言う事だし、現物が来るのを心待ちにしていると良いわ」
やけに朗らかな表情でそう答えた琴葉の表情の裏に、何か良からぬモノあるのではないか…と、燐は思えて仕方が無かった。
「何より…あの初回起動設定で、『雛鳥』がどういう行動を取るのか…私自身が楽しみにしているもの…ね」
朗らかな表情のまま目を細めると、誰にも聞こえ無い様な声音で、琴葉はそう小さく呟いた。