非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-79
「ち、ちょっと!! そんな!! 会話の流れと言うモノを全然理解してらっしゃらない!? 私のパスはどこへやら!!」
「…あ…一応、トランプ以外の何かで…」
「確かに、トランプはもう見たくないね」
「それじゃあ!! 是非!! 私を見て!! るっくふぉーみーッ!! 飽きてしまうほど!! 穴が開くほどに!! ただ、ひた向きな視線を私に!! ぷりーず!! へい、ぷりィーずッ!!」
ヘクセンは勢い良く立ち上がると、胸を張り、手で自分を指し示した。が、誰からもリアクションは無い。
「んー…急に言われると、何も思い付かないもんだね…」
「…なら…少し、散歩でもしませんか」
「散歩ですか!? イイですネェ!! こんな狭苦しい部屋に閉じこもっているより、百倍は健康的かつ健全ですし!!」
何故か、聡ではなくヘクセンが答える。何としてでも会話の流れに乗りたかったらしい。
「散歩かぁ…それは良いけど、どこまで行くの?」
「…公園まで、行きませんか」
「夜の公園に!! 若い男女が二人でナニをしに行くつもりですかッ!? 100%卑猥な行為に及ぶつもりですね!? 嗚呼、これが若さ故の暴走!? そしてホロ苦い青春の思い出の一ページに刻まれるんですねッ!?」
「…べ、別に、そんな事にはなりませんよ」
流石に聞き流せなかったのか、一応否定してみせる妃依。
「そ、そうだぞ…ならないにきまってるじゃないか…はは、ははは」
そう妃依に同意する聡の表情は、やけに緩んでいたが。
「ともかく!! なるならなるで、誰か、『ソレ』を見届ける人間が必要ですね!!」
「…どうしてそんな事を…という理由は置いても…ヘクセンさんは『人間』じゃないので、ヘクセンさんじゃ駄目ですね」
「何を仰る!! 私は人間ですよ!? お互い言葉で分かり合える、素晴らしき、一、生命体ですよ!? そこまで邪険にされる謂れが解りませんねッ!!」
「人間は、手からビームなんて出せないと思うけどな」
「出る人だって居ますよ!! 山奥とかで修行したり、変なモノを投与したり、レベルが上がったりすれば!! ビームとは言わず、様々な超物理現象が容易に起こせますとも!!」
言いながらヘクセンは『こんな風にッ!!』とばかりに、アイボールカメラを明滅させつつ、両手首から電気剣を露出させた。
「どんなファンタジー世界の話だよ!! 少年漫画か!!」
「…元はと言えば私の所為ですけど…訳が解らない位、話が逸れてますよ…」
「そ、そうだね」
「これは!! 私を連れて行くしかないという、天の啓示に違いありませんね!! 流石はマイガッ!! ナイス判断!!」
ヘクセンは、ガッ、と力強く胸の前で手を組み、本人にとっては清らかな表情になって高らかにそう謳い上げた。
「もし本当にそうだったら、俺…もう神様なんて信じねぇよ…」
「行くと決まれば!! 行動は早ければ早いほどイイですね!! 傾注《Achtung》!! スタンダッ!! 顔を上げろ!! 歯ァ食いしばれ!! 拳を握れ!! よろしいッ!! さあ!! いざ征きましょう!!」
否定の言葉など発せさせてたまるものか、という意志を言動で示すように、ヘクセンは勢いのみを以って、あさっての方に向かい立ち上がった。
「…はぁ…解りましたよ…もう、どうでも良いですよ…」
きっと今の自分は、数ヶ月前の自分とは比べ物にならない程に心が広くなっているのだろうな…と、妃依は思い、同時にそんな自分に幾ばくかの不安を抱いた。