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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-65


「なっ、何してるんですか…? 聡さん」
 流石の茉莉もこれには面食らったのか、両手で顔を押さえつつ(しかし、指の隙間から僅かに視界を確保済み)、動揺した様子で問い掛ける。
「そんなに見たいと言うなら、見せてあげましょう…ボクの全てを…余す所無く」
 聡の脳内でどんな混線があったのかは定かでは無い(知りたくも無い)が、『手相を見たい』の『見たい』という部分を歪曲解釈した結果、こうなってしまったらしい。
「さあ」
 胸を反らせ、手は左右に広げたままで、茉莉の方へと歩み寄る聡。
 まごう事なき変質者の姿だった。
「ぁわっ…せ、セクハラですよ? それは…」
「そんな横文字程度では、ボクの心は折れやしませんよ」
 意味不明な事を堂々と宣言し、さらに距離を詰める。
「私、手相が見たいって言っただけですよ!? そ、そこまで見せて欲しいなんて一言も…」
「手を見せるついでですよ。ははは」
「こ、こっちに…来ないで下さいよぉ…」
 説明するまでも無く、この時の聡は追い詰められた時の彼の常である『暴走』状態にあった(しかも今回は一人称までおかしくなっている)。
 ――だから、止まることは無い。己の内から生じた衝動に導かれるまま、彼は前に進む。
 それは純粋な衝動…『全てをさらけ出して、ただ前へ』…彼の中に在るのは、それだけだった。
「大丈夫、怖くありません。ほら、武器なんて持ってないでしょう?」
 慈愛の微笑を満面に湛える聡。それは、神々しささえ感じさせる笑みであった。
「い、いやあああぁっ…!!」
 気が触れそうになりつつある意識の中、茉莉は思っていた。
 本当は、手相を見ると言って、手を掴んで…接触式傀儡術で聡さんの身体を操って、無理やり向こう岸に渡ってしまおうとしていたのに…こんな、こんな居直りをされるなんて…。
 常世生まれの常世育ちで、腹黒さだけは十分に持ち合わせていた茉莉だったが、男性に対する免疫はあまり無かったらしい。地に膝をつき、赤面する顔を押さえて、目尻に涙さえ浮かべていた。
 その茉莉の様子を見た聡は、何をどう思ったのか、
「ああ、風が心地良い…」
 あさっての方を向き、穏やかな声で呟いていた。


 唇の感触を味わっている余裕などは、微塵も無かった。
「はい!! 今です!!」
 蘇生術の指揮を執っているのは、肌蹴られた先輩の胸に手を当てているヘクセンさん。その表情に遊びは無かった。
「…1…2、ハイ!! 止めて…ハッ!!」
 私の人工呼吸の後で、ヘクセンさんは、手の平から出した電気で心臓マッサージを行っている。
 額に滲んだ汗が伝って目に入った。息も上がっている。そんな状況だから、頭はかえって冷静に働いていたのだろうか。
(…ヘクセンさん、こんな真面目な顔もできるんだ…)
 そんな事を、頭の端っこでぼんやりと思っていた。
「バイタルチェック…ッ!! んんッ!! 生き返りそうな…そうでも無い様な!? さっさと生き返ってください…弟様!! エネルギーが切れる!! 私が死ぬ!! はぁぁあぁっ…!! 外部依存だけでは間に合いませんよっ!!」
 ちなみにヘクセンさんは今、腰の辺りから尻尾の様に伸ばしたコードを、洗面台の横のコンセントに差していた。
 それでもエネルギーが足りていないのか、呼吸が荒い。
「…14…15…ハイ!! ま、マスター…!! お願いしますッ!!」
「…ぁ、は…はいっ…」
 ヘクセンさんの指示で、人工呼吸を再開する。


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