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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-44


「ん…いざ考えてみると、愉快な案というものはパッとは浮かばないものね」
 日ごろの嫌がらせ(琴葉本人にとっては姉弟のコミュニケーション)のほぼ全てがその場の思い付きであるため、こうして改めて考える事は極稀なのである。
「それでは…粘着テープでお顔をぐるぐるとお巻きになられる、というのは如何でしょうか…?」
 控えめに挙手をして、燐が琴葉に提案した。
「…何で…粘着テープなの、燐ちゃん」
「え…? その…先日拝見しました映画の一コマに、その様にして罰を与えている場面がありまして…」
「…それは、罰じゃなくて、むしろ拷問だと思うけど」
「面白そうね。それでいきましょう」
「ち、ちょっと待ってくれ!! そんな事したら息が出来ないだろ!?」
「大丈夫よ、聡なら息をしなくても死んだりはしないと、私は信じているから」
「いや!! 死ぬよ!! 間違いなく!!」
「アブリス、私の部屋からガムテープを持ってきて頂戴」
「はい。琴葉様」
 聡の抗議はあっさりと無視された。
「雇われメイド、逃げられない様に聡を羽交い絞めにしておきなさい」
「はっ。了解しました」
「『了解しました』じゃねえーっ!!」
 美咲によって背後から腕を取られた聡は、身をよじって振り解こうとしたが、美咲の掴み方が上手いのか、振り解く事は出来なかった。
「すまんな、これでも私はプロだからな。離すわけにはいかんのだ」
「何のプロなんだよ!!」
「路地裏などで、被写体を押さえ付けるプロだ」
「だから、それは一体何のプロなんだよ!! アホか!!」
 わあわあぎゃあぎゃあと、聡が暴れている間に、アブリスは琴葉の部屋から戻ってきた。
「すいません、琴葉様…これしかありませんでした」
 と、申し訳なさそうな顔でアブリスが差し出したのは、テープはテープでもセロハンテープだった。
「まあ、構わないわ。これなら、窒息の心配もないでしょうし、ね」
「全然よくない!! …って、ちょっと、マジでやめて…うわ、ぎゃあああ…!!」 


 ――そして三分後、遊佐間家居間にて。


 怪人セロテープ男、爆誕。


「…酷いですね…見るに耐えません」
『もう、何とでも言ってくれ…』
 顔中に巻き付けられたセロテープの隙間から、くぐもった声で答える聡の顔は、妙な形で方々を引っ張られ、押し潰され、広げられた、正に怪人のような顔と化していた。
「さあ、一通り楽しんだ所で、二回戦と行きましょう…さあ、聡、負けたのだから配って頂戴」
 将棋部では基本的に、カードを配るのは負けた人の役目なのだ。
『…前が見えない…見えないよ、姉さん…』
 瞼を閉じた状態で固定されていた聡には、カードを切る事も配る事も、どだい無理な話であった。
「見えなくても問題は無いわ。さあ、配って頂戴」
『言ってる意味が、俺にはよく解らないよ…姉さん』
「昔からよく言うでしょう? 『心眼は肉眼に勝る』と」
『たとえそうであっても、俺には無理だよ…』
「全く、仕方が無いわね…それじゃあ、雇われメイド、貴女が代わりに配ってあげて頂戴」
「はっ」
 美咲は短く肯定を示すと、すぐさまテーブルの上に散らばったトランプを掻き集め、慣れた手つきで切り始めた。
(…ぅわぁ…)
 美咲先輩のメイドぶりにも、段々と板が付いてきたなあ。と、思う妃依であった。


 王様インディアンポーカー、第二回戦。
 他人のカードすら見えなくなっていた聡は、開始早々降りてしまっていた。
 ゲームを降りる事が出来ないのは、一回戦で降りているアブリスのみであり(将棋部ルールでは、一度降りたら次の勝負では降りる事が出来ないのである)、その他の四人は張り詰めた空気の中、心理戦を繰り広げていた。
(…珍しくKを引いた聡先輩が降りたから、解らなくなって来た…)
 降りる事の出来ないアブリスのカードは8。何とも微妙なラインである。ちなみに、最後の二人になった時点で、自動的に勝負しなくてはならなくなるため、降りるのならば決断は早い方が良いのだが…。
 美咲のカードはJ、燐のカードは9、琴葉のカードは10。
 揃いも揃って8以上の数字を持つ三人を前に、妃依は徐々に戦意を喪失しつつあった。


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