非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-39
「湖賀は…紅茶と緑茶、どちらが好みだ?」
「えっと…緑茶をお願いいたします」
燐はまだ、少々混乱していたが、琴葉と本人の説明により、何とか『美咲は遊佐間家の家政婦である』という事をまずまず理解していた。何故、巫女服を着用しているのかについては謎だったが。
「あー…その、琴葉先輩は…どうなされますか?」
「燐と同じで良いわ」
「そ、そうですか…で、宍戸は? どうする」
ついでとばかりに問う。
「…私は別に…強いて言うなら、水をください」
サリィを胸に抱いていた妃依は、寝起きゆえに純粋に水分を欲した。
美咲が起された時、同時に妃依もまた起きていたのだ(隣で、凄まじい事が展開されていたので、眠っていろと言う方が無理な話だったが)。
「そうか…では、暫し待たれよ」
グッタリとした空気を纏い、美咲はキッチンへと消えて行った。
「…そう言えば…燐ちゃんは、どうしてここに」
まだ、寝起きで体温の低かった妃依は、身体に押し付けるようにして抱き、サリィのネコ特有の熱を奪っていた。当然、サリィは、みゃあみゃあと暴れているが、放さない。
「はい、その、お姉さまにお会いしたくて…そう仰る妃依ちゃんは、何故、ここへ?」
「…私は、昨日、ここに泊まったから…」
「ほ、本当ですか…!? ああ…羨ましいです…」
燐の羨ましい、とは『琴葉の』家に泊まれるなんて羨ましい、と言う事だろう。妃依とは目的が異なっている。
「それなら、燐。今夜、貴女も泊まって行けば良いわ」
「えっ…いえ、わたくしは…その…よろしいのですか?」
「ええ、貴女が望むなら、いつまでだって居ても良いのよ」
琴葉先輩が言うと、冗談にも建前にも聞こえない。と、妃依は思った。
「…そうなると、燐ちゃんはどこで寝るんですか」
「勿論、私のベッド、よ」
「ええっ、そ、そんな…寝所を共に…ああ…」
琴葉の回答に、燐は赤面し、顔を抑えた。
「それとも燐は、別のベッドで眠る方が良いかしら?」
「いえっ、わ、わたくしは、お姉さまと共に…」
「そう、フフ…それで、妃依はどうするのかしら?」
「…私は、今日は…」
帰ります、と口にする前に、琴葉に遮られた。
「泊まって行きなさい、どうせ、夕飯はここで済ませるのでしょう?」
「…そうですけど…いいんですか、二泊もさせてもらっても」
正確には、一泊すら、しているとは言い難かったが。
「ええ。あと…雇われメイドも今日は泊まらせるつもりだから、良い様にこき使ってあげて頂戴」
ああ、美咲先輩の意思なんて介する隙間も無いんだ…と、妃依は、日給五万の先輩が初めて不憫に思えたのだった。