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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-34


 キィィィ…ン…ズゴォォォォン!!
「ぐぉぁぁがああああああっ!!」
 聡の背後から突如襲った謎の衝撃によって、聡は姉の部屋の窓を突き破り、あわやベランダから転落という所で停止、沈黙した。
「どうやら…成功したようね」
 部屋の外で静観を決め込んでいた琴葉は、今になってようやく、己の部屋へと足を踏み入れた。
「あっ…こ、琴葉様…」
 部屋の中央では、アブリスが破られた服を抱えるようにして、小さくなって震えていた。
「危なかったわね、アブリス。『アンファング』が起動してくれていなかったら、今頃どうなっていた事か…」
 と言って、宙に手を伸ばした琴葉が手にしたのは、人参の様な形をしたモノ――先程の衝撃を生み出した原因――独立型対象防衛ビット『KY-01-R アンファング』である。光学迷彩を施されて宙に浮いた状態で待機していたため、聡はコレを見つける事が出来なかったのだ。
「まあ、聡には悪い事をしたけれど、死なない程度に出力は絞ってあるから、大丈夫よね」
「あ、あの、琴葉様、さっきの人は…?」
「もう安心なさい、変質者は動かなくなったから。可哀想に…怖い目に遭ったのでしょう?」
 全てを仕組んだ張本人が、抜け抜けと言う。
「はいっ…こ、怖かったです…!! うえぇ…ぐすっ…」
 アブリスは琴葉に抱きつくと、堰が切れたように泣き出した。
「もう大丈夫よ…大丈夫だから、ね? フフ…」
 そうやってアブリスを宥める琴葉の表情は、やはり、どこか楽しげだった。


「だ、騙してたんだな…姉さん…」
 二十分後、何とか立ち直った聡は、姉に対して抗議をしていた(引け目もあるので押しは強く無かったが)。
「騙していた訳では無いけれど…そうね…燐に渡す前に、聡を使って『02』と『01』の起動実験をしておこうと思ったのは事実ね」
「あんまりだよ!!」
 その『起動実験』の所為で、彼は身も心もボロボロだった(半分は自分の所為なのだが)。
「まあ、過ぎた事を悔やんでも、未来は見えては来ないわ。ともかく、お使いの話は本当なのだから、アブリスを燐の家に連れて行ってあげて頂戴」
 聡の意思が介入する隙間は、どこにも在り得なかった。
「くっ…自分で行ったらいいじゃ無いか…」
「駄目よ、私はこの間、燐の家に行ったばかりなのだから。一度、燐が私の家に来るまでは、私の方からは尋ねたりしない事にしているの」
 何ですか、その二人の間だけの暗黙のルールみたいなのは…。
「そ、そう。じゃあ、燐ちゃんに来て貰えば…?」
「大した用事でも無いのに、燐を呼び出すのは可哀想だわ」
 え…大した用事でも無いのに行かされる俺は…?
「とにかく、早く行きなさい。遅くなってしまうわ。ん…アブリス、もう、着替えは終わったかしら?」
 琴葉は、自分の部屋で新しい服に着替えているであろうアブリスに声を掛けた。
「あ…はい、着替え終わりました…ぁ…っ!?」
 きぃ…と、恐る恐る琴葉の部屋から出てきたアブリスは、聡の姿を確認するや否や、琴葉の後ろへと隠れてしまった。
「あらあら、嫌われたものね、聡」
 琴葉は、しがみ付くアブリスの頭を優しく撫でながら言った。
「うっ…」
 これに関しては、そそのかされたとは言え、完全に自分に非があるので言い訳は出来なかった。
「大丈夫よ、アブリス。もし、あの変態に襲われそうになっても、貴女の傍にはいつもアンファングが居て、守ってくれているのだから」
「兄様が…?」
「ええ、そうよ。そうでしょう? アンファング」
 琴葉が宙に向かって語りかけた所から、滲み出すようにして姿を現したアンファングは、『そうだ』とでも言いたげに、人参の様なボディーを上下に揺らして頷いて見せた。そしてまた、するすると姿を消す。
「わぁ…ありがとう、兄様」
 とても頼りになる兄(KY-01)に、妹(KY-02)は、ふわっと微笑みかけた。
「今…空中に浮いてた、透明なニンジンみたいなの、何なんだ?」
 姉の技術はここまで来たのか…と、聡は半ば驚愕、半ば呆れ気味に問うた。


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