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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-32


「い、痛い痛い痛いイタイぃっ!! 私の身体の中で一番弱い所をそんな風に苛めないで下さい…!! ああっ!! でも、もっと!! もっとしてください…っ!!」
 余りの痛みの信号に、ヘクセンの裏属性『M』が発動してしまったようだ。
「気持ち悪い声を出すな!!」
 怖気がして、身を引くようにして足を退ける。
「はぁ、はぁ、機械だからといって、ここまでされるなんて…!! でも、それを悦んでいる私もいる…!! ああ、心って不思議ですね!! 弟様!!」
「お前が変態なだけだ!! …はぁ…ともかく、外に出て行け、気が散る」
「ふ、ふん…っ!! 解りましたよ!! こっちから出てってやりますよ!! こんな狭くて埃っぽい所!!」
 逆切れしたヘクセンは、もぞもぞとベッドの下から這い出し、忌々しげにベッドに一瞥くれると、早々に部屋から出て行った。
『…ヘクセン、貴女、今なんて言っていたのかしら?』
『ええええっ!? こ、琴葉様…!? な、何も!! 何も言ってませんよ!?』
『そう…ログ再生、二十秒前』
『え!? 『…こっちから出てってやりますよ!! こんな狭くて埃っぽい所!!』…はうっ!!』
『へえ、そう。そんなに埃っぽかったかしら、御免なさいね、ヘクセン』
『いえあのその…!!』
 外から聞こえてくる会話に耳を傾けていた俺だったが、その辺で怖くなって耳を塞いだ。
 それでも、何かが破裂するような音だけは、塞いでいた耳にも届いたが。


 外も静かになったので、俺は姉さんから頼まれたお使いのため、目の前で横たわる少女に、改めて目を向けた。
「さてと…」
 俺が耳元で『好きだ、愛してる』と呟く事が起動条件である、その少女型アンドロイドは、特に突飛な格好をしている訳でもなく、見るからに普通の女の子だった。とは言っても、小学生くらいの、だが。
「こんな子に『愛してる』って…誰が見ても、イタい人だよな…」
 思わず天井や壁に目を走らせる。姉さんなら、カメラの十台や二十台、仕掛けていてもおかしくは無い。
「まあ、自分で自分を追い詰めても仕方ないし…はぁ、覚悟を決めて、言うか」
 少女の頭の傍らに跪き、耳元に顔を寄せる。
(うお…どうして、こんな、いい匂いが…!?)
 少女から香ってきたそれは、合成無機的な匂いではなく、女の子らしい、石鹸の香り。頭がくらっとする。
「落ち着け…アホか俺は…」
 ひよちゃんにでも見られたら、百回は地獄巡りをさせられそうな光景だ。
「はぁ…え、っと…好き、だ…あ、愛してる…」
 心臓はこれ以上無い程にバクバクいっていた。出来るものなら今すぐ死にたい。
 暫くの沈黙…実際には五秒そこらだったのだろうが、酷く長く感じた。
「ん…ぅん…」
 もぞ、と動く少女。だが、目は瞑ったまま。気絶状態から睡眠状態に移行したようなものだ。現状としては何も好転していない。
「き、起動って…もっとシャキっと起きたりするもんじゃないのか…?」
 仕方がないので、起こす事にする。
「どうやって起こせばいいんだろう…鼻か?」
 小さくて可愛らしい鼻を、無造作に指で摘まむ。
「…んあぁ…」
 起きない。まあ、アンドロイドだからな、この程度では起きないか。
「おーい…起きてくれ」
 ぺちぺちと頬を叩く。が、『ぅ…やめて、くださ…い…』と、寝言だか本音なんだか解らない事を言われたので、思わずやめた。
「姉さん、この子、起動はしたけど、起きないぞ」
 俺は少し声を大きくして、ドア越しの部屋の外に居るであろう姉に助けを求めた。もしかしたらヤブヘビなのかもしれないが。
『フフ…スリープモードになっているのでしょう? パスを入力しないと起きないわ』
「パスって、何だよ?」
 また、色々と恥ずかしい事を言わされたりするのか?
『キスしなさい』
「…はぁっ!? キスって…どうしてそんな事をパスに設定するんだよ!! 姉さんは!!」
『キスで目覚めるなんて、御伽話のお姫様のようで素敵でしょう?』
 そうか…どこまでも趣味の人なんだな…姉さんは…。


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