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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-31


「いや、ちょっと、買い物に」
「居辛くて、逃げ出してきたのではなくって?」
「まあ…そういう理由も、有るけどね」
 部屋の中に特に何かがあるという訳では無いとは言え(箪笥の奥は別だが)、女の子に部屋を見られていると言うのは、心なしか落ち着かなかったのだ。
「フフ…まあいいわ。外へ行くのなら、お使いを頼まれてくれるかしら」
 遂にネコじゃらしを押さえ込む事に成功したサリィを、更に上から押さえ込むようにして撫でて、琴葉は自分の部屋を指差した。
「お使い? どんな事なんだ?」
「別に大した事ではないわ、ただ、物を運んで欲しいだけ、よ」
「姉さんの部屋の中にあるのか? それ」
「ええ、すぐに分かるわ」
 そう言った琴葉の笑みは、少々意地の悪い感じであった。


 姉の部屋に入った聡は、入って早々度肝を抜かれた。
「うっ、うおぁっ!! だ、誰!?」
 姉の部屋の中心には、小柄な少女が倒れていた。全く動いていない。少なくとも寝ている訳ではないらしい。
『運んでもらいたい物は、それよ』
 部屋の外から姉が声を掛けてくるが、それが余計に混乱を呼んだ。
「ま、まさか…俺に、死体処理を…?」
 それでは、この少女は、姉の犠牲者か…?
「ガッデム…何てこった…」
 聡は空に十字を切った。別に神教徒では無かったが。
『何を勘違いしているのかは知らないけれど、それは『KY-02-R アブリス』という、私の造ったアンドロイドよ』
「え? あ、ああ、ヘクセンみたいなヤツか…」
 そう言われてみれば、どこと無く、顔つきとかが、ヘクセンに似ているかもしれない。
「それで、この子をどこに持って行けって言うんだ?」
『燐の所へ』
「燐ちゃん? あー…何となく解る気がする」
 純和風な雰囲気を纏っているその後輩、湖賀燐は、見た目とは裏腹に、その実かなりのゲーム・メカマニアなので、こういう物に対しては垂涎必死なのだった。
「解った…けど、この子、どうやって運べって言うんだ? 警察に捕まるぞ?」
 見た目が幼な気で、どう見ても人間にしか見えないこの子を抱きかかえて歩いていたりなんかしたら、警察の恰好の的である。
『アンドロイドだと、説明したら良いでしょう?』
 児ポ法に喧嘩を売っているとしか思えない言い訳だ。
「いや、それだと余計に捕まりそうなんだけど…」
『仕方ないわね。起動スイッチを入れれば、自律動作するから、それを使いなさい』
「スイッチ…って、どこ?」
 まさか、アレな場所だったりするのか…? かの人型パソコンの様に…と、邪な思考が頭を埋め尽くす。
『外部スイッチではなくて、音声認識スイッチよ。変な考えは止しなさい』
「あ、あはは、そうか…で、どうするんだ?」
『耳元で『好きだ、愛してる』と呟くと起動する仕様になっているわ』
「へぇ…って!! なんだよそりゃあ!!」
『別に、意図は無いわよ』
「余計に悪質だよ!!」
『とにかく、聡か燐の声以外では起動しない様に設定してしまったのだから、観念なさい』
 その時点で、『俺への嫌がらせ』という意図が十分滲み出ているのだが。
「全て、仕組まれているのか…」
 はは…姉さんはこういう人だったじゃ無いか、今更何を言ってるんだよ、俺…。
「はあ…じ、じゃあ、仕方が無いし…言うか…ん?」
 と、やや投げ遣りになった俺は、横たわる少女(アンドロイド)の横に、うねうねとした、見覚えのあるコードの様なモノがある事に気が付いた。先端は、こっちを向いている。
「…」
 その元を辿ると、姉さんのベッドの下に続いていた。
「ヘクセン…どこへ行ったか、と思ってたら、一体何をしてるんだ…お前は」
 気が付かれたからか、逃げようとするコードの様なモノ『ラドシュパイヘ』を踏み付けて、俺はベッドの下に潜んでいるであろう本体に言い放った。
「いっ、いえ!! 別に!? 弟様が幼女に『好きだ、愛してる』と呟いているシーンを録画し、マスターに見せて修羅場を誘おうだなんて…ハッ!!」
 ぼろぼろぼろぼろと本音を暴露するヘクセン。シークレットセキュリティーはザル並みだった。
「き、貴様…」
 『ラドシュパイヘ』を踏む足に力が入る。


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