非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-30
「嫌よ嫌よも好きのうち、か…?」
「かなり違う!!」
「…あの、先輩」
急に、妃依がうずうずとした感じに発言する。
「何、どうしたの?」
「…ベッドに寝てみても、いいですか」
「ど、どうして?」
「…広くてふかふかで、気持ち良さそうなので」
「確かに…遊佐間、私も試しに寝てみたいのだが」
美咲も挙手して告げる。
「いいけどさ、汗臭いと思うぞ」
「…構いません」
「ああ、汗の匂いは嫌いじゃ無い…特に柔道部などは…」
「あー…はいはい…じゃ、気の済むまで寝ててくれ…俺、ちょっと買い物に行って来るから」
そう言い残し、聡は逃げる様にして部屋から出て行ってしまった。
「…」
「さて、寝てみるか? 宍戸」
「…一緒に、ですか」
「何だ? 私と一緒に寝るのが嫌なのか? 宍戸は」
「…いえ、別にそういう訳では…無いですけど」
妃依は迷っていた。ベッドの上には枕が二つ。その、どちらが聡先輩の枕なのか…と。
「寝ないのならば、私が先に寝させてもらうぞ」
「…ち、ちょっと待ってください…」
枕の色柄は同じ。ベッドは壁際。つまり、奥か、手前か…。
「? …何を迷っているのだ?」
「…いえ、別に」
ヘクセンさんには、かなりの寝坊癖がある。聡先輩は…そうでもないから…起きやすい手前が、多分先輩の…。
「…じゃあ、先輩、先に、奥へどうぞ」
「ん? 待てと言ったり、先に行けと言ったり…どっちなのだ…」
妃依の不可解な言動に疑問は抱きつつも、美咲は言われたとおりにベッドの奥側へと潜り込んだ。
「っ…むぅ、これは…低反発…た、高いのだろうな」
早速洩らした感想はそれだった。
「どうした? 宍戸も早く来い、思いの外、気持ちがいいぞ」
巫女さん姿の美咲が、ぽふぽふと隣を叩いて妃依をベッドに促す。
これが…美咲先輩じゃなくて…もし…。
「宍戸? ぼぅっとして、どうした」
「…あ…い、いえ…なんでもありません」
美咲の言葉で、刹那の妄想から、ふと我に返った妃依は、顔を真っ赤にしていた。
「な、何故、顔を朱に染めているのだ…? ま、まさか宍戸、お前、百合属性が…」
さっ、と身を守るように腕を構える美咲。
「…大いに違います…」
冷静につっ込んだおかけで、少し落ち着いた妃依は、恐る恐るベッドへと潜り込んだ。
「…あ、ホントに、ふかふかですね…コレ…はぁ…」
先程までの緊張はどこへやら、妙にリラックスしてしまう。
「ここまで心地よいと、眠ってしまいそうになるな」
「…はい、昨日は、きちんと寝てなかったので…余計に…眠く」
昨日の疲れがここに来て全部降りかかって来た様に、急に眠気が襲った。
「ふぁあ…ぁ、すまんが、私は眠らせてもらうぞ…」
「…じゃあ…私も…寝ます」
それから十分もしない内に、どちらが先にともなく、二人は眠りに就いていた。
時は少し戻る。
部屋から出てきた聡は、居間でサリィと戯れていた姉に呼び止められた。
「聡、あの子達はどうしたのかしら?」
ネコじゃらしの玩具をサリィの前でひらひらさせて、サリィのネコパンチを誘いながら、言った。
「え? ああ、何だか知らないけど、俺のベッドに寝てみたい、って」
「そう、それで、貴方はどこへ行くつもりなの?」
サリィは目の前でひらひらしている謎の物体を撃墜しようと、必死に身体を伸ばして攻撃を繰り出している。