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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-26


「メイドさんは…遊佐間のメイドさんではなかったのか? 何故、宍戸の命令を聞くのだ?」
「…それは、説明したくありません」
 あくまで触れられたくない事柄だった。
「そ、そうか…ところで、宍戸」
「…何ですか」
「先程から聞こうと思っていたのだが…遊佐間は、どうしてこんな事になっているのだ?」
 既に聡は『眠い』と呟きすらしなくなり、ただ、虚ろな目でどこか遠くを見つめていた。半開きの口からは涎が垂れている。これは死体だ、と言われたとしても、何ら違和感は無かった。
「…さ、さあ…多分、寝てるのでは」
 言っていて自信が無くなる位、聡は死体の様な顔をしていた。
「変わった寝顔だな…それとも、コレが一般的な男の寝顔というモノなのだろうか」
「…それは絶対に…違うと思います」
 切実に、そう思いたかった。


 聡は、漂ってくる香りに誘われるように目を覚ました(と言うか気が付いた)。
「んあ…何だ? 凄くいい匂いがする…」
 いつの間にやら時刻は正午を回っており、この匂いは、妃依が料理を作っているのだろうと解釈した。
 刹那、聡は閃いた。曰く『ひよちゃんが料理を作ってる姿をじっくりと見たい』と。閃きと言うよりは、下心だったが。
 思い立ったら行動は早かった。すぐに立ち上がり、キッチンへと向かう。
「ひよちゃん、おはよ…う…って…はぁっ!? あー…み、美咲…か?」
 キッチンで料理をしていたのは予想外もいいところな人物であった。
「遊佐間、ようやく目覚めたか。全く、男とは不健全で不健康な同性愛者だらけなのだな」
「何でお前がここに居るんだ…? しかも、その格好は一体…」
「…この家に、家政婦として雇われたそうです」
 椅子に逆向きで座っていた妃依が答えた。美咲が『昼食は私が作ろう。無論、手伝いは無用だ』と言い出したので、仕方なく美咲を観察していたのだ。
「家政婦ぅ? 一体、誰が雇ったんだよ、姉さんか?」
「いや、お前のご両親だ」
「あの、ボケ夫婦…考え無しにまた余計な事を…」
 きっと、母さんあたりが言い出したに違いない。聡はそう確信していた。
「ご両親のことをそう悪く言うものではないだろう、親不孝な奴だな」
「美咲…お前、給料いくら貰ってこの仕事引き受けた?」
「ああ…たしか、日給、五万円だ」
 それを聞いた聡と妃依は、勢い良くぶっ倒れた。
「にににに、日給、五万だと!?」
「…そ、それって…夏休み中ずっと働いたら、軽く百万円超えるじゃないですか…」
 聡は改めて、父親の底知れない経済力にぞっとした。そして、その1%でもあやかりたいと切に願った。
「う、そうだな…確かに、うますぎる話だ…何かウラでもあるのだろうか」
「多分それは無い、素でそういう事をやるんだ、あのボケどもは」
 きっと、母さんが『戦争を見たい』とでも言い出したら、世界は混沌に落ちるのではないか。そんな気がした。
「…あ、美咲先輩…」
「ん、どうした?」
「…焦げてますよ、玉子焼き」
 話しこんでいる間、ずっと放って置かれたコンロの上のフライパンからは、黒煙がもうもうと上がっていた。
「むっ!! うっ、これは…焦げすぎだな…食えたものではない…」
 端の方からボロボロと炭化してしまっている。体に毒だという事が一目で解る代物と化していた。
「ふーん…そうか? 意外とうまそうだけどな」
 横から惨状を覗き込んだ聡が呟いた。
「遊佐間…お前、頭は正常か?」
「ん? ああ…こんなのでも、悠樹の作ったモノに比べれば…遥かにマシだからな」
 言って聡は、玉子焼きの焦げの少ない部分を千切って、口へと放り込んだ。


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