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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-20


「…まあ、カフェインはともかく、ふるにとら…って何ですか」
 聞き覚えの無い薬品名に首を傾げる。
「ただの睡眠導入剤よ。寝つきが悪いのよね、私」
「…そ、そうですか…」
 と、その時、
 どがらがらがしゃんっごんっがつん
 凄い勢いで周りの物を薙ぎ倒しながら、死に物狂いの形相のヘクセンが走ってきた。機能が回復したらしい。
「ここここっ琴葉様ぁっ!! 遅れてしまってすいませんっ!! 解体だけは、解体だけはご容赦を!! 機能が停止していたので仕方がなかったんですぅっ!!」
 余程急いでいたらしく、『ラドシュパイヘ』を引っ込めることも忘れているようだった。だらりと人差し指の先端から出たコードを引きずっている。
「ああ、それはもう構わないから、私の部屋と聡の部屋のベッドメイクをしてきて頂戴」
 ヘクセンが唯一、まともに出来るメイドらしい仕事がベッドメイクであった。
「はっ!! …弟様の部屋もですか!? それは何故にです!?」
 いつもであれば琴葉の部屋のベッドメイクしかしていないので、ヘクセンは不思議に思った。ちなみに、ヘクセンはずっと聡のベッドの半分を借りて寝ているのだが、今まで一度も聡のベッドを整えようとはしなかった。自主的に何かをしようとする性質ではないのだ。
「今夜はそこに妃依が寝るからよ」
「ななななっ!! 何ですと!? それでは今夜はマスターと一緒に寝ることになるんですか!? いやぁっ!! 何と恐ろしい!! 己の身を案じずにはいられませんよ!!」
「…一緒に…って、それは…どういう意味ですか」
 妃依の脳裏には、何かが引っかかりまくっていた。『今夜は』という事は、いつもは誰と寝ている事になるのか…。
「え!? いやぁ!! 弟様のベッドは大きいですからねぇ!! 半分は私のテリトリーでして!! はい!!」
「…それは、つまり…普段は聡先輩と一緒に寝ている、という事ですか」
「まあ!! ぶっちゃけ、そうですが!! …って、ど、どうかしましたか!? マスター!! 顔が怖いですよ!? え…も、もしかして、オラオラですかぁっ!? 何故!? り、理不尽に過ぎますよ!?」
 ヘクセンは、妃依の雰囲気に気圧されて、じりじりと後退った。
「…ヘクセンさん、立ったまま寝ればいいじゃないですか…わざわざ、先輩と一緒に、寝なくても」
「マスター!! その発言は非常に酷い!! …というか、はっはぁーん!! ヤキモチですか!?」
 本人もあまり自覚すらしていなかった図星を突かれて、妃依はうろたえた。
「…ちが…いますよ、そういう事じゃ、ありません…」
 妃依は一瞬にして勢いを殺がれてしまった。言葉が尻すぼみになってしまう。
「じゃあ、一体どういう事なんでしょうねェ!!」
 ヘクセンはここぞとばかりに増長していた。
「あー…痛…ん? 揃いも揃って、ベランダで何してるんだ?」
 ヘクセンに続いて復活した聡が、頭をさすりながら、居間に現れて言った。
「聞いてくださいよ!! 弟様!! 何とですね!! マスターが…っはぁっ!!」
 妃依は、何の躊躇いも無くヘクセンの足をすくうと、その勢いでヘクセンをベランダの向こうへと放り投げた。
「うはああああああああ!! マジですかぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
 地上約150mの高さから落下したヘクセンは、ものの3秒ほどで夜の闇へと紛れて、見えなくなってしまった。
「…すいません、つい、やってしまいました」
 誰にとも無く妃依は謝罪した。


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