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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-16


 今まで、琴葉に『泊まっていけば』と聞かれても、常に『帰ります』と答えていた妃依だったので、初めてのこの返答に、聡は大いに動揺していた。
「…先輩だって、前に、私の家に泊まったじゃないですか…だから、何となく」
 妃依は悪戯っぽい響きを含めて答えた。
「へえ、それは初耳だわ。フフ、聡も意外と行動派だったのね」
「い、いや、別にそんな、何も無かったよ…? ただ、泊まっただけで…」
 すると、妃依は少し悲しそうな表情を聡に向け、
「…あの事、覚えて無いんですね…やっぱり」
「ひ、ひよちゃん、何を…?」
「あら、お邪魔かしら、私」
 琴葉が口に手を当て、とても楽しそうに微笑んだ。
「お、俺、からかわれてるのか?」
 少しだけ、ヘクセンに戻ってきてほしいと思う聡であった。


「本当に泊まるんだね…ひよちゃん」
 居間で漫画を読んでいた聡は、浴室へと向かう途中の妃依に声を掛けた。
「…ええ、まあ」
 妃依は手に、琴葉から借りた着替えを持っていた。サイズが多少(結構)違っていたが、とにかく借りた。
「何だろう…落ち着かないな、気分的に」
「…覗かないでくださいよ、お風呂」
 からかうつもりで妃依が言った。
「そ、そんな事、考えてないよ」
「本当ですかぁ!? 弟様は意外とやらしいですからねぇ!!」
 聡と向かい合って、やはり漫画を読んでいたヘクセンが『プクク…』と、聡を馬鹿にした様な笑みを浮かべた。
「…意外と、っていうより、そのままですけどね」
「あのさ…俺、悪い事したかな? さっきから、ひよちゃん…微妙に意地悪だ…」
 聡も、流石に気が付いてきたようだった。
「…すいません…先輩をからかうの、面白くて」
 妃依は苦笑しながら、浴場へ向かおうと振り返った。
「そうかい、そうかい…ああそうだ、ひよちゃん、その着替えのブラのサイズさ…」
 ずごしゃっ。
 聡の反撃としての『からかい』が言い終わる間も無く、聡のこめかみには妃依の踵がめり込んでいた。
「…何が言いたいんですか」
「ぐはっ…さ、最後まで言ってないじゃないか…って言うか、ぱんつ」
 足を大きく振り上げた為、比較的長めのスカートを履いていたにも関わらず、蹴られている聡からは丸見えだった。
「…」
 ざすっ。
 短く息を吐き、振り上げている足をそのまま一回転させて、爪先で聡の後頭部を蹴った。
「が、があぁ…ひ、ひよちゃん、これは洒落になってない…」
 これで気を失わない聡も、それはそれで尋常ではない。
「…じゃあ、本当に覗いたりしないでくださいね」
 念を押して、妃依は浴場へと向かった。
「は、はい…ぐ、ぐはっ…」
 直後、蹴りのダメージが効いてきたのか、聡はテーブルにうつ伏せたまま動かなくなってしまった。


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