非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-15
そんなヘクセンの様子に、三人はあからさまにホッとした様な表情を浮かべた。
「なっ!! 何ですか!? その、人を馬鹿にしたような視線は!! ここまでされないといけない理由が思いつきません!! 私はそんなに罪作りな女ですか!? もしそうだとしても、無自覚だからドンマイとかって訳にはいかないんですか!? 嗚呼!! もっと寛容な心で接してくださいぃぃっ!!」
ヘクセンは取れている自分の腹部装甲を元に戻そうと悪戦苦闘しながら、絶叫した。
「って言うか!! くっつかない!! コレくっつきません!! 戻らないなんてイヤ!! うあああっ、誰か助けて!! これじゃ色々と零れ出てきてしまいますよ!! ああ!! 嬉しそうな目でこっちを見ないでください!! 何ですか、これは視姦ですか!? 私は辱められているのですかァッ!? もうイヤだァァァ!! いっそ自爆したい気分ですよォッ!!」
三人は、ヘクセンが『戻った』事を確認して、ようやくテーブルに着いて食事を取る事にしたのであった。
当然、ヘクセンは完全放置だった。
食後、三人(+一匹と一体)は、夏休み特別企画とかで、地上波初公開らしい何だか良く解らないアクション映画を見ていた。
「…そういえば、どうしてサリィはヘクセンさんのお腹の中に入っていたんでしょうか」
妃依は映画の内容には全く興味が無い様な表情で、内容とは関係の無いことを呟いた。
「さあね、腹でも減ってたんじゃないのかな?」
そう答えた聡は、この何だか良く解らないアクション映画を映画館に行ってまで見に行って後悔した事があるので、ぐたり、とつまらなそうにソファーに深く沈んでいた。
「私がそんな無節操にモノを口に入れるとでも!? 赤ん坊ですか!? 私は!! と言うか、こっちが聞きたいですよ!! ああ!! 猫畜生!! いつ私の中に入ってきたんですか猫畜生!!」
ヘクセンは、何とか壊れていた腹を直した様で、いつもより激しさ二割増位でテレビの前で暴れていた。
「邪魔よ」
琴葉が、すっ、とリモコンでも向けるかの様に、ヘクセンに向かって先程の無線送信機を突きつけた。
「はわぁぁぁっ!! 押さないでください押さないでください!! それは駄目ですよ!! 今しがたくっ付いたばかりなんですから!! どきますから許してくださいぃ!!」
腹を押さえながら、ヘクセンはキッチンの方に逃げて行ってしまった。
「多分、サリィは狭い所が好きだから、ヘクセンがスリープモード中の隙に、口の中に入ってしまったんじゃないかしら」
テレビからは目を逸らさず、琴葉が先程の妃依の質問に答えた。
「つーか…姉さん、コレ、面白いか?」
コレとは当然、映画の事だ。
「ええ、それなりにね」
琴葉はとにかくテレビが好きだった。琴葉は暇さえあれば、用途不明な機械を作るか、テレビを見ているかのどちらかをしている。聡としては、もうちょっと外交的になって欲しいと思わないでもない。
「こういうのは、素直に内容を楽しむものではないのよ…そうね、シナリオを自分の中で再構築する、と言えば良いのかしら。実に心踊ると思わない?」
琴葉流の楽しみ方なのだろうが、聡と妃依には、今一理解できなかった。面白くないものは面白くない。
「あ…そうだ、ひよちゃん、帰らなくても大丈夫なの?」
もう、時刻は十時を回ろうとしていた。いつもならばとっくに帰っている時間である。
「…え? …ああ、もう、こんな時間ですか…気が付きませんでした」
「もう遅くて帰るのが面倒だというのなら、泊まって行くと良いわ」
軽く笑みを零し、琴葉が呟いた。
「…え、と…じゃあ、そうさせてもらいます」
「じゃあ俺、送ってくよ…って!! ひ、ひよちゃん…今何と?」
「…ええ、ですから、泊まらせてもらいます」
「えっ、えええええっ!? と、泊まる!?」
「騒がしい割に、リアクションがワンパターンよ、聡」
琴葉につっこまれたが、聡はそれ所ではなかった。
「…私が泊まると、迷惑ですか」
「いや!! そんな事は無いけど!! 急にどうしたのかな…って」